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 防衛時評は、全国防衛協会連合会機関紙「防衛協会会報」の連載記事として、全国防衛協会連合会の常任理事等に投稿をお願いしているものです。
号番 発行日 タイトル 投稿者(敬称略)
117号 24.1.1   人的基盤の改革には幅広い検討を   江間 清二 (全国防衛協会連合会副会長兼理事長)
116号 23.10.1   大震災後における防衛政策  廣瀬 清一 (全国防衛協会連合会常任理事)
115号 23.7.1   想定外の事態  澤山 正一 (全国防衛協会連合会常任理事)
114号 23.4.1   ”愚者の楽園”からの脱却を!  廣瀬 紀雄 (全国防衛協会連合会常任理事)
113号 23.1.1   防衛協会の仕事に携わることになって  江間 清二 (全国防衛協会連合会副会長兼理事長)
112号 22.10.1   安全保障の基本  山本  誠 (全国防衛協会連合会常任理事)
111号 22.7.1    軍事情勢の変化と今後の対応   山崎  眞  (全国防衛協会連合会常任理事
110号 22.4.1   我が国の防衛を真剣に考える秋(とき)  渡邊 元旦 (全国防衛協会連合会常任理事
109号 22.1.1   新春防衛時評「日米安保改定50周年を迎えて」  日吉  章  (全国防衛協会連合会副会長兼理事長)
108号 21.10.10   民主党政権への要望   小柳 毫向  (全国防衛協会連合会常任理事
107号 21.7.1   日本の領土問題   大串 康夫 (全国防衛協会連合会常任理事)
106号 21.4.1   国際協力と武器使用  大越 康弘  (全国防衛協会連合会常任理事)
105号 21.1.1   新春防衛時評「中国の台頭と日米関係  日吉  章  (全国防衛協会連合会副会長兼理事長)
104号 20.10.1   民主主義を有効に機能させるために  山本  誠 (全国防衛協会連合会常任理事)
103号 20.7.1   21世紀における海洋の安全  山崎  眞  (全国防衛協会連合会常任理事
102号 20.4.1   防衛省改革に思うこと  小柳 毫向  (全国防衛協会連合会常任理事
101号 20.1.1   新春防衛時評「国益と国際協力」   日吉  章  (全国防衛協会連合会副会長兼理事長)
100号 19.10.23   自衛隊は軍隊か?  横地 光明 (全国防衛協会連合会相談役)
99号 19.7.23   望まれる安保政策の充実強化  大串 康夫 (全国防衛協会連合会常任理事)
98号 19.4.23   国家の「独立」に思う  横田 泰彦 (京都府防衛協会常務理事)
97号 19. 1.23   新春防衛時評「国防意識雑感」  日吉  章  (全国防衛協会連合会理事長)
96号 18.10.23   日本を破滅させる”謀略”の招待  渡辺  眞  (東京都防衛協会監事)
95号 18. 7.23   再びイラク派遣に思う  小柳 毫向  (全国防衛協会連合会常任理事)
94号 18.4.23   中国とどう付き合うか  山本  誠  (全国防衛協会連合会常任理事)
117号 24.1.1 人的基盤の改革には幅広い検討を  江間 清二 (全国防衛協会連合会副会長兼理事長)

                               

 明けましておめでとうございます。

 会員の皆様には日頃防衛協会の目的達成のため熱心に取り組んで頂いていることに心から敬意を表します。
殊に昨年は「ガンバレ自衛隊応援募金」を募りましたところ、予想を大きく越える浄財が寄せられました。募金の趣旨に則り適切な執行に努め、大きな成果を挙げることができたと考えております。
皆様の暖かいお心と熱意に厚く感謝申し上げます。

 この未曾有の大震災に際し自衛隊は陸海空の統合任務部隊を編成し、十万人を越える総力を挙げた態勢で対応に当たられました。この身の危険を顧みない昼夜を分かたぬ献身的な活躍は被災された方々のみならず、等しく全国民の心を打ち自衛隊に対する評価を一段と高めたところであります。
 自衛隊は今回の活動を通じて各級レベルにおける日米間の指揮調整要領、原発対処能力等々多くの教訓・課題を得られたことと思います。それらは今後の施策に十分反映し、一層の充実発展に繋げて頂きたいと願っております。

 そうした中、私自身気になることがあります。それは人の問題です。十万人規模の態勢となれば交代要員を含めその倍の数は必要となります。
 加えて一刻たりとも忽せにできない周辺海空域の警戒監視、今や恒常化している国際平和協力業務等々を考慮すると現状の人的規模で本当に支障はないのかという心配です。
 最近発表された対領侵措置としての緊急発進回数も増加傾向にあります。
 またペルシャ湾への掃海艇派遣に始まった国際平和協力活動もその後内容が逐次多様化・拡大し、震災対処中もソマリア沖・アデン湾、ハイチ、ゴラン高原等々世界各地で一千人規模の隊員が活動を続けている状況です。

 先に策定された新防衛計画の大綱では陸上自衛隊の定員が一千人削減されました。装備の質的近代化等により省力化の余地が生ずるとしても自ずとそれにも限界がありましょう。
 一方で政府は今回の大震災に際して200に及び国々・国際機関から頂いた暖かい支援に報いるためにもその一端を担う国際平和協力活動に積極的に取り組んでいく旨表明されております。この要請にも応えていく必要がありましょう。
 抑も、新たに任務を課す以上その達成に必要な手段が与えられなければなりません。この活動の位置づけは平成19年に大きくその性格を変えました。それ迄は現に保有している人員装備を活用して実施するいわば付随的任務ということでしたが、同年以降は防衛出動、治安出動、災害派遣等々と並ぶ本来任務と位置づけられました。
 これにより同任務の遂行に必要な人員装備はその整備が可能になったということです。
 また新大綱は従来の基盤的防衛力構想を転換し、今後は動的防衛力を構築するとされました。この動的防衛力というのは運用面に着眼した概念であるといえます。それがどうして基盤的防衛力構想と同列に対比される概念なのかよく理解できませんが、同構想をすてて必要とする量的規模を算出できるのか。また、同構想では情勢に重大な変化が生じ新たな態勢が必要となったときはすみやかに新態勢に移行する、そのため基盤的防衛力においては急速養成が困難な高度の技術を駆使し得る要員をゆとりをもって保有しておく等、強固な態勢の中核となり得る力を備えておくよう求められておりました。
 動的防衛力ではこうした面への取り組みはどうなっているのか。昨年八月、新大綱に示された各種検討課題への取り組み状況が中間報告されております。それによると人的基盤に関する改革推進については幹部・准曹の比率を引き下げ、士を増勢する。そしてその士を第一線に優先的に充当し、それ以外の職務に中高年層を活用、それに適した処遇を適用する「後方任用制度」等を導入するとしています。理屈の上では理解できても第一線と後方部隊が職務の別なく一体となって活動する現実の部隊運用と巧くマッチするのか懸念されるところです。

 もとより人員の増加は人件費の増加を招きます。防衛とて国の他の諸施策との調和を図りつつ整備を進めていかなければなりません。要は資源の重点配分の問題といえますが、大綱別表が示しているように基幹部隊の他、海空自衛隊にあっては装備が、陸上自衛隊にあっては人が戦力の指標であります。これらの諸点を十分踏まえ、将来に禍根を残さぬよう巾広い検討が引き続き行われるよう切に望まれるところといえます。

     

116号 2310.1 大震災後における防衛政策  廣瀬 清一 (全国防衛協会連合会常任理事)

                               

一 大震災の教訓を無駄にしない

 東日本大震災は日本にとって深い傷跡となって残るであろう。その影響は計り知れないものがある。特に福島第一原発の事故は国民全体を不安の底に陥れ、未だに復興の光明が見えない。この間における自衛隊の活躍は国民にとって大きな支えとなり、被災者救援の単なる物理的な支援にとどまらず、精神面でも国民全体に大きな心の支えや希望となった。この国難にあたり日本が一丸となり官民挙げて一日も早い復興を成し遂げなければならない。

さて、災害派遣部隊は主力が撤収され、自衛隊は本来業務へと態勢を整えつつある。自衛隊には多少の戦力回復が必要であろうが、周辺の国際情勢は待ってくれない。新たな防衛大綱の実現はもとより、南スーダンへの新たなPKO部隊派遣の検討や、周辺海空域における警戒、普天間基地問題、島嶼防衛のための部隊配置等、検討も進めなければならない問題は山積している。

今般の災害派遣において自衛隊の重要性は全国民が深く認識するところなったが、「有り難う、ご苦労様」で済ませてはならない。この大規模複合災害の発生で様々なことが明らかになった。

 また、災害派遣にあたり多くの教訓が得られた。初めての統合任務部隊の編成、
10万人を越える規模の災害派遣、日米共同の救援活動、広域かつ陸海空が一体となった活動は、かつてなかった経験である。この教訓をしっかりと生かし、次への時代へ引き継ぐことが重要である。

 例えば、自衛隊の平時における人的規模は本当に適正なのか、予備自衛官を招集する事態となったが予備自衛官制度や規模は適正か、
10万人の動員で日本周辺の警戒態勢に怠りや問題は生じなかったか。原子力災害での対応は充分であったか、これらの人員装備等の問題の他、政府や防衛省内での意志決定や補佐機能、また情報伝達や指揮命令の徹底等に齟齬はなかったか。全般的には素晴らしい活躍で立派な成果を残したと言えるが、しっかりとした評価こそ次世代への大きな遺産である。

 今年はたまたま「大正百年」にあたり、大正
12年の関東大震災からの復興が今日の復興としばしば紙上で比較されている。大正デモクラシーの後に起きた関東大震災では官民挙げて復興にあたり、大きな成果があったと言われている。

 また、その後に大正軍縮があり満州事変への道を歩んだ歴史や数々の過去の教訓をしっかりと学び、今日の防衛に生かされなければならない。

二 防衛政策見直しの必要性

新防衛計画の大綱は新安保懇の提言を受けて昨年11月に閣議決定され、正式に示されたばかりである。新たに動的防衛力の考え方が取り入れられ、また新中期防衛力整備計画も同時に示されたが、僅か半年で、事態は大きな変化を生じてしまった。

 日本を取り巻く安全保障上の現状認識について新大綱策定までは整合性はあったのかしれないが、僅か数ヶ月で状況は急変しつつある。昨年末から周辺地域での軍事情勢変化、例えば朝鮮半島での不安定要因の増大、島嶼防衛態勢強化の必要性や日米共同実効性向上の課題はここ数ヶ月でも情勢は大きく変化している。

 一方で、東日本大震災により日本の国内事情が急変した。これまでの国家運営の大黒柱に急変が生じたのである。日本丸の舵を大きく切ることが余儀なくされた。先般、復興構想会議の提言を受け、「復興基本方針」が政府により策定され、本格的な復興の方向が示された。

 基本方針では復興期間は
10年とし、税制措置、復興施策、原子力災害からの復興、復興庁の設置等が明らかとなった。やはり難しい問題は復興財源である。この10年間の国政の方向は復興一筋となることは容易に想像できる。このままでは復興期間における新防衛大綱の実現や中期防衛力整備は財政的に厳しいことは容易に予測できる。この厳しい財政にあって出来ないことがあるのも当然だが、防衛政策の推進において、このまま議論なしで流されることは危険である。どのようにあるべきか大震災後の防衛政策について、しっかりと議論をして対応し、その中で如何に復興に貢献していくかが重要である。

三 プラス思考で防衛政策を推進

復興財源は一般財政とは区別されているが、財政全般において厳しい影響は必須である。防衛に関し、国民の理解がある時に、懸案の課題は解決できる事も多い。日米同盟関係の強化や基地問題の打開、国際貢献活動に関する法整備、武器輸出3原則の見直し、自衛官の名誉に関わる制度の改善、俸給制度見直しの他、全国防衛協会連合会が「防衛問題に関する要望書」で要望している内容で、財政的な問題に関わらず解決できる課題も多くある。

 この時期だからこそ努力次第で実現できることもある。この際、しっかりと優先順位を定めて国の防衛を確固たるものにできる目標を明確にすべき時期と考える。

 「ピンチはチャンス」の言葉がある。財政的に厳しい時代であるからこそ着実な防衛力の整備は特に重要であり、加えて制度面や政策面のソフトパワーで大きな改善を図るチャンスである。

 また
10年間の復興期間後に備えた防衛力整備のための基盤を充実する時期でもある。この復興の時期に果たすべきことは多い。その意味で勇気と知恵をもって厳しい難局にあたってもらいたいものである。

 復興ビジョンにおいて、あまりにも経済偏重主義ではないか、「お金がかかる」、「財源が難しい」など、財政再建や節約のソロバン勘定ばかりではマイナス思考や縮小思考に陥ってしまう。復興のチャレンジ目標を示し、国民全体がプラス思考になる知恵が必要である。政府防衛関係当局の周到な準備と強い政治的なリーダーシップに期待したい。


     

115号 237.1 想定外の事態  澤山 正一 (全国防衛協会連合会常任理事)

                               

 まず、東日本大震災で被災された皆様に衷心より哀悼とお見舞いを申し上げます。

 この大震災関連の報道で、「想定外の事態で・・・」と言う言葉が政府・自治体・東京電力等関係者から何度も使用され、それが色々な事態を招いた言い訳に使用されているのではないかとその都度奇異に感じた所です。

 災害等を想定し、想定の中なら対応できるが、それ以外では対応出来なかったと言いたいのだと
思います。

 しかし、危機管理を担当する者として、想定していない事態が起きたのならば事態の見積もりが甘いと言われても仕方が無いと思います。最悪の事態を考慮はしていても、その様な事態は考えたくない又は可能性が少なく考える必要が無いので対応を考えなかったと言うのではお粗末と言わざるを得ません。

 起こる事態の可能性が低くとも、最悪の事態を考え、それが起きれば大きな影響を生じる事態ならば、起きる可能性も有ると考えリスクとして最小限、対応を検討しておくことが危機管理者としての責務と思います。

 今回の例を参考として、色々な正面で危機管理を担当している責任者は、最悪の事態が起きたときのリスクとして捉えている事態をその様な事態は考えたくないとかその様な事態の確率は低いので検討しないという事がないか自らの正面について見直しては如何でしょうか。

 これに関連して防衛正面で数年前に起きた出来事について感じる所を述べたいと思います。対象が自然災害か人為的行為という差異はありますが、考える基本は同じと思います。

 ゲリラ・特殊部隊への対応等に関する領域警備に関する法律及び自衛隊の武器使用基準等についての議論で、特に特殊部隊という、兵士も厳選され、特別な装備を持ち、特別の訓練を受けたその国の最精鋭と言われている部隊に対し、国民の生命・財産を守るために出動した自衛隊の部隊・隊員の任務遂行に当たり、どの様な事態が生じ、如何にすればその任務が容易に遂行されるかと言った議論は殆ど無く、この法案等が国会を通りやすくするにはどの様にすればよいかとの観点の検討・議論が主体であった様に思います。

 有事と平時の狭間にあるという事態に対し、武器使用等に一定の制約をかけるのはやむを得ないと思いますが、政治家や官僚の机上の議論だけで色々な事が決められてきた様に思われます。

 どの様な敵がどの様な行動をとり、それに対し出動した自衛隊の部隊・自衛官が任務遂行のためどの様な行動を取る必要があり、その為どの様な事態が生じるかを検討し、その上で権限等を考えるということが不十分ではなかったかと思います。

 戦争状況ではないので警職法の準用程度で良かろう位の考えではなかったかと思います。国際貢献活動特にイラクの様な治安が悪い国への派遣に際しても同様だったと思います。

 その様な事は考えたくない、余り起こりそうに無いとして検討をせず、国民及び任務に従事した自衛官の血が流されて初めて気がつき「想定外の事態で」とならないようにしてもらいたいものだと
思います。
   

                

114号 23.4.1 ”愚者の楽園”からの脱却を!  廣瀬 紀雄 (全国防衛協会連合会常任理事)


                   

                   密約の再検証

 「愚者の楽園」、この言葉は、佐藤首相の密使として沖縄返還に貢献した大学教授若泉敬氏が、平成6年5月、日米首脳会談(昭和4411月)で交わされた「秘密合意議事録」(核の再持込み・繊維交渉での譲歩)(以下、「密約」)を公表した著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(以下、「他策」)で述べたものである。

 「他策」公刊以降、歴代政権は「密約」の存在を否定し続けてきた。

 しかし、一昨年、政権交代により密約の再検証が行われ、「密約」原本の存在が判明したこともあり、
平成22年3月有識者委員会は、「必ずしも密約とは言えない」と結論付けながら、この交渉に人生を捧げた密使「若泉氏」の存在と「他策」の正確性を認め、報告書の末尾では「若泉―キッシンジャールートが開かれたことは大いに評価できる。」とした。

                   密使役と執筆

 若泉氏は、昭和5年、私の義兄と同郷の福井県今立郡服間村横住(現越前市)の生まれで、福井師範学校から東京大学法学部に進み、保安研修所(現防衛研究所)を経て、京都産業大学教授に就任してい
る。

 沖縄返還交渉では、安全保障・核戦略分野の国際政治学者として、「戦争で失った領土を武力によらずに取り戻す」という史上類のない難しい仕事に情熱を注ぎ、英米留学中の人脈を生かし、ニクソン政権のキッシンジャー大統領補佐官を相手に密使役を務めた。

 同氏は返還交渉後、現実政治に関与せず学研生活に戻っていたが、昭和
55年以降、郷土近くの鯖江市に帰郷して大学の講義や来訪外国要人の接遇を除き縁者とも没交渉の隠棲生活を貫き、「他策」の執筆活動に専念した。

                   公開の心境

 若泉氏は、当初「密約」について「墓場までの沈黙」を誓っていたが、後藤氏(後述)によれば、公開の心境を、「沖縄に対する贖罪意識」、「愚者の楽園と化したという憂国の念」、「研究者としての記録の提供」、「国会発言を通じて愚者の楽園と堕した日本の魂に点火し得る可能性」と述べている。

 若泉氏は、将来、米国情報公開法による機密解除が行われることを考慮し、永い遅疑逡巡の末、「国家機密(密約)の暴露」による国事犯として訴追され、「天下の法廷(国会)の証言台」に立つことも覚悟して公表に至ったと述べている。

                   黙殺と英語版

 発刊後、羽田首相をはじめ歴代首相・外相は、その禁忌性ゆえに「密約」の存在を否定し続け、大田沖縄県知事から問合せがあったほかは国会喚問等もなく世の中から黙殺された。

 若泉氏は深く失望し、平成6年6月23日、「自責の念と
結果責任を取り自裁する」との遺書をしたため沖縄戦没者墓苑に詣でたが思いとどまり、日米関係の現状や沖縄の基地問題を世界に伝えたいとの最後の望みを懸け、平成8年3月、末期がんの苦痛に堪え与那国島にて英語版序文を書きあげている。

 その中では、郷土生れの幕末の志士「橋本左内」や歌人「橘曙覧」にふれながら、「
この著作とそこに流れる私の志が日本人の魂に点火し得る可能性に期待する」としている。

 同氏は、
平成8年727自宅において英語版発刊関係書類に署名した直後に水杯で服毒自殺し、義兄と同じ総山墓園(鯖江市)の地球儀を模した墓に夫妻で眠っている。

 同氏の訃報に接し、侍従を通じ今上陛下から弔意が伝えられたという。

                  「他策」での遺言

 当時の産経新聞(佐伯記者)(平8年8月)によれば、「若泉敬氏の遺言」として、
一つ目は「日本の精神的退廃に対する鋭い警告」であり、生前、自己の訃報記事に跋文(後書き)の一節「敗戦後半世紀間の日本は、『戦後復興』の名の下にひたすら物質金銭万能主義に走り、その結果、変わることなき鎖国心理の中でいわば
愚者の楽園と化し、精神的、道義的、文化的に根無し草に堕してしまったのではないだろうか」を添えて内外報道陣に送るよう指示していたという。

 跋文では、日本の前途を憂慮し、新渡戸稲造著の『武士道』を行動指針として、この精神的荒廃を救うよう提唱している。

 二つ目は「日米同盟関係の再検討と再定義」が必要であるとし、その大前提として「まず日本人が毅然とした自主独立の精神を以て日本の理念と国家利益を普遍的な言葉と気概をもって米国はもとより、アジアと全世界に提示することから始めなければならないと信じている」と述べている。

 しかし「他策」が発刊されたにも拘わらず、同氏の志や遺言も、歴史の闇の奥深くに置き去りにされようとしていた。

                  「他策」の復活

 外務省の密約再検証が契機となり、平成2110月に文芸春秋刊「他策」が復刻、平成22年1月に岩波書店刊「沖縄核密約を背負ってー若泉敬の生涯」(早大後藤乾一教授)が発刊、同年3月には「週刊朝日(19日号&26日号)」で「密約検証結果外伝若泉敬」が連載、そして同年6月にはNHKスペシャルで
「密使若泉敬:沖縄返還の代償」が取り上げられた。

 最近では、平成
23年1月、文春新書「評伝 若泉敬―愛国の密使」(帝大森田吉彦講師著)が出版され、同年2月にはTBSシリーズ激動の昭和にて「総理の密使ー核密約42年目の真実」が放映された。これらにより「他策」が歴史の闇の奥深くから再び世の中に姿を現し、私は、同氏の志や遺言が多くの国民に理解されることを期待している。

                   日本の現状

 私は、一つ目の警告について、敗戦後のGHQ占領政策に端を発した精神的な武装解除によりこれまでの歴史認識・伝統文化・道徳的価値観が否定され、「教え子を再び戦場に送るなー戦争する国家・軍隊に反対」という戦後教育が組織的かつ継続的に行われたことにより、多くの国民から健全な国家観や愛国心が喪失させられ、その影響は、あらゆる分野の中枢にも及んでいるのではないか。

 二つ目の日米安保の再定義
について、若泉氏は、平成8年4月の橋本・クリントン首脳会談で「日米安保共同宣言ー21世紀に向けた同盟」が発表されたことに歓喜したという。

 また、同氏の思想は愛弟子の外務省首脳にも受け継がれ、麻生外相(平成
1811月)の「価値の外交」&「自由と繁栄の弧」というビジョン発表につながったといれている。

 しかし、現在、北方領土・竹島・尖閣諸島の領土問題で安全保障上の懸念が生じる中、普天間移転問題等で日米同盟に揺らぎが出ていると思われるが、国民の危機意識は必ずしも高くない。
これらを勘案すれば、日本は未だ、若泉氏がいう「愚者の楽園」にとどまっているのではないかと危惧している。

                  楽園からの脱却

 若泉氏は、「愚者の楽園」からの再起復興には、「自らの国の安全は第一義的には自らの手で、自らの犠牲で守りぬくという意識」をもつべし、その前提には「自国の国家目的・理念の自覚と忠誠、自主独立の精神」がなければならないとの信念をもっていた。

 そして、同氏は、新渡戸氏が『武士道』で訴えた「衣食足って礼節を知り、義・勇・仁・誠・忠・名誉・克己」といった普遍的な徳目に裏打ちされた「再独立の完成」と「自由自尊の顕現」を、今後の日本と日本人に期待するとしていた。

 また、グローバルな根源的危機(戦争)に対処する力は「各民族固有の文化の中にある」とし、国防問題でも皇室を守ることを中心として日本人が団結しなければ実効性を失うとしている。

 私は、同氏の遺言を真摯にとらえる
必要があると思うが、考えてみれば、多くの国民の国防意識は、戦後教育の影響も有り、現憲法の精神に沿った「平和主義」&「安保他国依存」になっている。

 「愚者の楽園」
から脱却するためには、独立国としての理念の確立と物心両面に亘る国防体制が構築できるような憲法に改正することが不可欠のように思う。

 そのための環境整備の一環として、多くの人に「他策」や関連図書に触れてほしいと念願するもので
ある。


113号 23.1.1 防衛協会の仕事に携わることになって 江間 清二 (全国防衛協会連合会副会長兼理事長

                            

 新年おめでとうございます。

  昨年6月、日吉前理事長の後を受けて当連合会等防衛協会の仕事に携わることとなりました。私にとっては初めてのご縁でありますが、東京都防衛協会は私が防衛庁に入庁した昭和41年に設立されたと伺い大変親しみを覚えると同時に否応なく当時の国内外の状況を思い起こしました。

 国外にあってはトンキン湾事件、北爆の開始とベトナム戦争が拡大し始め、中国では核実験の開始、文化大革命の生起という正に混沌とした状況にありました。

 国内にあっては保革対立の下で防衛に関する国論が二分され、自衛隊のクーデター計画ではないかと野党の激しい追求を受けたいわゆる三矢研究の論議もようやく収束し、政府部内では第三次防衛力整備計画の策定作業が進められておりました。

 世の中では依然憲法違反の自衛隊という論議が繰り返され自衛官の大学受け入れも拒否されるという異常な状態が続いていました。
 
 そうした中で純粋に民間人から成る防衛協会等が自然発生的に各地で結成され、自衛隊員の激励、活動への支援協力と防衛意識の普及高揚に当たってこられたことは、隊員にとって誠に有難くいかに心の支えとなったことかは想像に難くありません。


 その後
40年以上が経ちましたが、この間防衛力の整備も着実に進められると同時に、日米防衛協力の指針の策定、同指針に基づく日米共同作戦計画の研究、指揮調整機構のあり方等々共同対処が前提である以上平素から両国間で密接に協議検討がなされていなければならないテーマ、しかし我が国では従来タブー視されてきたテーマについて確実な進展がはかられるようになりました。

 また法的受け皿である有事法制についても研究開始から四半世紀を経て制定・施行され、基本的な基盤が整えられました。

 更に、冷戦後の国際社会にあって平和と安定を構築するため各国にその努力が求められている国際平和協力活動についても自衛隊の新たな機能として任務化され、また新たな脅威として浮上してきた大量破壊兵器、その運搬手段としての弾道ミサイルの世界的拡散、テロに対する諸施策も逐次進展が図られております。

 他方で、隊員施策の充実はもとより防衛庁の省への移行等々も進み、国民の自衛隊に対する評価はかってとは格段の変化がみられています。

 これは日頃の自衛隊の真摯な活動の成果と国民の防衛意識の高まりによることは言うまでもありませんが、同時に
55年体制に終止符を打った村山連立政権の発足が挙げられます。同政権においては自衛隊合憲、日米安保堅持を鮮明にし、国論の統一の巾を格段に広げられました。


 こうした世の中の変化から今や当協会の役割は終わったのではないかとの声も聞かれます。

 しかし、当面の課題を挙げただけでも自衛隊の位置づけの明確化等を図るための憲法改正論議、国際平和協力活動のより効果的実施のための恒久法制定論議、武器使用基準のあり方等々基本的な問題がまだまだ残されております。

 加えて複雑多様な国際社会の変化を考えますと今後自衛隊の役割もそれに対応して多様化が図られていくことも期待されるところであります。

 そうした状況を考えますと当協会の存在意義と活動の重要性はこれまでと何ら変わるところはなく、今後とも自衛隊に対する支援協力に力を入れ、自衛隊の活動状況を広く国民に周知させていくと同時に、そのことを通じて国民一人一人の国を守る気概を醸成していくことが重要であります。

 併せて現状に対する疑問、問題認識を率直に示していくことも極めて大事なことであります。ただその際、私共は識者・学者の集まりでも自衛隊関係者の集まりでもありませんので、問題解決のための持論を展開し、世論をリードするという姿勢ではなく、あくまで市民の立場として素朴に抱く疑問、問題認識を取り上げ、正しい世論の形成に寄与するという姿勢で臨んでいくことが肝要と考えております。かかる姿勢こそが当協会の基本的立場ではないかと思うからであります。


 会員の皆様の御理解とご協力をお願い申し上げます。


112号 22.10.1 安全保障のj基本 山本 誠 (全国防衛協会連合会常任理事)

                            

「学べば学ぶ程海兵隊が抑止力を維持していることがわかった」。沖縄普天間飛行場の移転問題が振り出しに戻った時の鳩山前首相の発言である。国家の安全保障に対する首相の認識がこの程度のものであったのかと驚き呆れると共に、国の将来に危倶の念を抱いた人も少なくなかったのではないか。

 国家の安全保障について、一般大衆はどの様な認識を持っているのだろうか。ここでは、学者先生の難しい論文はさておいて、ぐっとレベルを下げて動物的感覚に基づく安全保障の基本について述べてみたい。

 国連人口基金のデータ(2008年度版)によれば世界の人口は約675000万人に達し、1年に凡そ1億3000万人のペースで増加しているという。1億3000万人といえば、毎年日本の人口と同じ位の人口が増えていることになり、このペースでいけばあと30年もすれば世界の人口は100億人を超えることになる。そうなれば近い将来に食料が足りなくなる時代がやってくる。例えば100人に対して70人分の食料しか無いという事熊になった時どうするか。話し合いで「貴方の所は6人家族だから2人減らして下さい。貴方の所は4人だから1人減らして下さい」と言われてもCO2の削減じゃあるまいし、はいそうですかとはいかないのが人情というものだ。そうなれば生き延びる為の熾烈な争いが始まるだろう。

 ここでは食料が足りなくなった場合といった極端な例を挙げたが、そこまでいかなくても人間は有史以前から、富や資源・領域や覇権を争って殺し合いを続けてきた。人間の歴史は戦争の歴史だと言われる所以はこの辺りにある。

 人間は万物の霊長などと言われているが、人間と雖も生物の一種であり、「弱肉強食・自然淘汰」といった自然界の現象を免れることは出来ない。如何なる生物も種の保存といった本能に従って自然界で生存している。この中で人間は偶々前頭葉が発達したことにより他の生物を制圧して繁殖してきだけのことである。

 毎日の食卓を観てみよう。牛・豚・鳥・魚等、多くの生き物の命を戴いて我々は生きている。考えてみれば人間程残虐な生物はいない。人間以外の生物には天敵がいるが、人間を捕食する生物はいない。その結果人間はどんどん繁殖してお互いに殺し合いをする。

 人間の天敵は人間である。

 こういった状況の中で、「如何にして淘汰される側に回らぬ様にするのか」。これが安全保障の基本である。単独では安全を確保出来ない資源小国の我が国にとって、「どの国と組むのか。そしてどの様な組み方をするのか」。これが安全保障の基本戦略ということになる。

 組む相手を間違えるとどうなるのか。嘗てドイツ・イタリアと組んでアメリカ・イギリスを敵に回し310万人もの同胞を失って完膚無きまで叩きのめされた時の教訓を忘れてはならない。

 我が国は海洋を紐帯として結ばれる海洋国家群の一員である。その中で生存を維持する為に我が国は
食料(カロリーベース)
65%、エネルギー資源の95(中東からは往復で約90隻のタンカーが給油管の様に常に列をなしている)、鉱物資源は100%海外に依存せざるを得ない貿易立国であり、その流通を確保し、貿易秩序を維持することが立国の条件となる。

 この為、不安定の弧と言われる中東からのルートやアジア太平洋を含むシーレーンの安全と自由貿易秩序を維持する為の地域の安定を確保することが、我が国にとって死活的に重要である。

 こういった観点から、好むと好まざるに関わらず、この地域・海域に強大な影響力を有するスーパーパワーであるアメリカと確りと組んで日米同盟を堅持し、果すべき役割をきちんと果たして他の自由圏諸国との連携を強化していく事が、平和と独立と繁栄を維持していく為に我が国が採り得る最善の選択肢ということになる。沖縄の基地問題にしても国内の政争の具にするなどは以ての外であり、国の将来に誤り無き様、大所高所から論ずべきである。


111号 22.7,1 軍事情勢の変化と今後の対応 山崎 眞 (全国防衛協会連合会常任理事)


                               

                               新しい事態の発生

先般、黄海において哨戒中の韓国海軍コルベット艦「天安」(千二百トン)が突如真っ二つに折れて沈没し、多数の死者を出すという悲惨な事象があった。その後の原因調査により、沈没の原因は北朝鮮の小型潜水艇から発射された魚雷によるものであることが判明した。韓国と北朝鮮が休戦状態にあり、境界水域で緊張状態が続いていたことは確かであるが、海軍の正規軍艦が何の予兆もなく突然(何者かにより)高性能の武器により攻撃されるという事態は、過去にあまり例を見ない新しい事実である。韓国は大統領が声明を発し、断固とした処置をとると言明しているが、諸般の情勢から抑制力を働かせている。しかしながら今後これがどのような事態に進展するのかは予断を許さない。

                           ハイブリッド脅威の出現

やはり悲惨な事件であった9・11以後、米国は戦争の形態を四つの型に区分した。それは、「非正規型」(イラク・アフガニスタン型)、「大量破壊型」(9・11型)、「混乱型」(サイバー戦・宇宙戦争型)、「在来型」(本格的在来戦型)の四つである。以後、戦争の形態はこの区分に収まっていたかに見えたが、最近米国は新しい脅威を強く認識し始めた。今年二月に公表された「四年毎の国防見直し」(QDR)では、「ハイブリッド脅威」という新しい言葉が出てきた。これは、前記の四つの戦争形態を同時に発生させる新しい型の脅威である。すなわち、在来戦、非正規戦、テロ等を複合的に同時に発生させる脅威のことである。ゲイツ国防長官は、「戦争の区分はぼやけてきた」と述べている。この脅威は、国家または能力の高い非国家によってなされ、綿密な計画の下に予兆なく突然起こされる。従って予測が困難である。この意味では、韓国哨戒艦に対する魚雷攻撃はまさしく多方面にわたって密かに、かつ綿密に計画された「ハイブリッド脅威」といえる。

                        対応策(多任務・多機能化)

 このようなハイブリッド脅威への対応は、あらゆる事態に即座に対応できる柔軟かつ適合性のあるものでなければならない。このためには多種のバランスある兵力の運用が肝要であり、軍のビークル(戦闘車両・航空機・艦艇など)は当初設計されていたのとは異なる任務にもつかされることがある。すなわち部隊の多任務・多機能性が求められるようになる。例えば米海軍では、イージス艦は優れた戦闘能力を有するが、本来の任務である戦闘のみではなく偵察哨戒、テロ・海賊・不法行為への対処、災害救助、他国との友好親善など多くの任務につくことになる。今後、最初から多任務・多機能を狙って設計されるビークルも出てくるであろう。勿論、ハイブリッド脅威に対処するためには、このようなビークルを持つこと以前に、戦略、戦術、部隊配備、配員、訓練などを適合性のあるものにしなければならない。我が国はこのような情勢への対応策を迅速に講じるとともに、新防衛計画の大綱・次期中期防を作成中である現在、新しい脅威への対応も真剣に検討することが必要である。

    

110号 22.4.1 「我が国の防衛を真剣に考える秋(とき) 渡邊 元旦 (全国防衛協会連合会常任理事)

                              

                           「事業仕分け」の功罪

 今年の国家予算を決めるために、昨年末に初めて「事業仕分け」作業が実施された。功績として@国民の政治に対する関心を喚起したこと、A各省庁の予算関係者が、持ち出し事業の意義を真剣に考え始めたこと等が挙げられよう。

 一方、罪過としては、「仕分け人」の人選の不透明感もあり、限られた時間の中でそれぞれの事業の必要性が本当に議論されたのか疑問視されたことを指摘したい。

 元自衛官の筆者としては、国家の大事である「防衛・安全保障」事項は民間人を主体とする「事業仕分け」にはなじまないと考えているが、それにしても「自衛官の増員要求」が何故、「見直し」と判定されたのか、腑に落ちない。

 自衛隊に与えられる広範多岐にわたる任務の重さ、そのための活動を支える根拠地となる駐屯地・基地等の維持・警備の必要性、更に付言するならば、自衛官募集の実態…今年の自衛官募集数は例年の3分の1の数千名程度に落ち込むらしいが、昨今の不況の中、入隊希望の本人はもとより、従来多くの在校生を自衛隊に就職させてきた高校にとっては一大事であり、募集の最前線に立って、これら高校と長年にわたって良好な関係を築いてきた自衛隊地方協力本部にとっても大きな打撃である…等についての見識が欠けているとしか思えない。

                        我が国を取り巻く防衛・安全保障環境

 今年1月の「チャイナネット」に、「09年軍事報:自主知財所有の装備、10年前の16倍」という文が掲載されていたが、その内容は、「自主知的財産権を所有する装備は10年前に比べ16倍に増加した上で、昨年10月の中国建国60周年閲兵式に参加した多くの新型を含む52種類の装備はいずれも国産で自主革新能力を十分に示している」というものであった。

 ストックホルム国際平和研究所『2009年度版年鑑』によると、中国軍の08年度軍事費は日本円に換算して約8兆3,700億円で世界第2位(日本の防衛費は4兆5,600億円で同第7位)であった。中国の公表軍事費は過去20年間で19倍と見積もられる一方、日本は1.2倍であり、今年中にはGDPにおいて中国が日本を追い抜くと言われていることを併せて考えると、今後、日中の防衛(軍事)費に大きな隔たりが生じ、それが中国による日本の防衛能力の軽視に繋がるのではないかと危惧している。

 六カ国協議の進まない北朝鮮問題、昨年の軍事費増強(前年比25増)や新型戦車1,400両を含む装備の近代化を進めているロシアの復活等を考えると、我が国を取り巻く防衛・安全保障環境は厳しくなっいると言えよう。

                         我が国の防衛を真剣に考える秋

 以上のような状況にもかかわらず、民主党主導による政権ができて半年余り過ぎたが、こと我が国の防衛・安全保障政策は不安で一杯である。 昨年末に決定するはずであった新防衛大綱は先延ばしした上に、今年1月には日米安保条約改定50周年を迎えたにもかかわらず、普天間飛行場移設問題処理の不手際から日米関係はギクシャクしたままである。

 これまでの我が国の防衛政策は、自民党政権の下、日米安保体制を基軸として、経済発展を阻害しない範囲で最小限度の防衛力整備を図ってきた。途中、東西冷戦の終結、米国における9.11同時多発テロ事件等により整備の内容は逐次変化してきたが、その基本となる考え方は「米軍の軍事力とそれを補完する日本の防衛力によって、日本及びその周辺地域を力の空白地帯としない」ということであった。

 我が国を取り巻く安全保障環境が厳しくなる中、現政権はどのような考え方で我が国の防衛・安全保障を万全ならしめるのか。

 幸いにして、この夏には参議院選挙が行われる。与党、野党は総力をあげて「我が国の防衛」をどのようにしていくべきか、今こそ真剣に考える(とき)ある。

109号 22.1.1 新春防衛時評 日吉 章 (全国防衛協会連合会理事長)

                    日米安保改定50周年を迎えて

                             

 新年おめでとうございます。

今年は日米安保条約改定50周年に当ります。この条約改定を巡って当時我が国では国論を二分しての大論争が展開されましたが、現在では日米安保の意義に疑念を抱く人は殆んどいないのではないかと思います。

 ところで、昨年誕生した鳩山政権は、その政策に「緊密で対等な日米関係」を掲げましたが、「緊密な」はよいとして、「対等な」とは一体何を意味するのかと、我が国でもまた米国でも揣摩臆測、疑心暗鬼を呼び、様々な議論が巻き起っています。

 翻って、我が国周辺には、国際世論を無視して核開発を進めミサイル発射を続ける北朝鮮や一党独裁で驚異(脅威?)的な軍備の増強を図る中国があります。このような情勢の中で、日米安保体制は、我が国は勿論のこと東アジアの安定にとっても極めて重要な役割を果しているものと考えられます。

 そもそも日米安保体制は、米国には日本を守る義務があるが、日本には米国を守る義務がない(その代わり基地を提供する)という非対称のものになっています。それを「対等な」といっても、我が国が米国と同じような役割を担うことはおよそ不可能でしょうし、逆に、米国の役割を日本並みにするのでは日米安保の意義は著しく減殺されるでありましょう。

 確かに、防衛摩擦の際などにも見られたように、米国には強引で独善的なところがあります。しかし、それは米国が超大国であるから通るのであって、我が国がそれを真似るには余ほど慎重、冷静かつ総合的に国益を考えた上でのことでなければなりません。

 世界は今や米国の一極支配から多極化の時代に移り、新興国なかでも中国の国際影響力は極めて大きなものとなっています。核を保有し、経済面でも世界最大の外貨準備高と米国国債保有高を誇り、米中間の貿易額が日米のそれを上回り、今年中にはGDPが我が国を抜き世界第二の経済大国になることが確実視されています。

 この隣国中国とどのように付き合っていくかということが、今後我が国の外交、安全保障、経済など各般にわたって最大の課題になるものと考えられます。この事態に適切に対応するには、先ずは何よりも依然として世界の超大国であり、自由・人権・民主主義尊重の価値観を共有する米国との同盟関係を確固たるものにしておくことが不可欠です。しかし、それは同盟関係を結んでさえいれば足りるというものではなく、この同盟が米国の足らざるところを補完するという米国にとっても不可欠なものでなければなりません。

 そのためには、例えば、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を認めるとか、厳しい財政状況ではありますが防衛力の強化を図るとか、アジアに位置する我が国の地理的条件や周辺諸国との歴史的関係を活かして我が国ならではの情報を収集・提供し、見識を示すとかの努力が必要と考えます。なお、基地問題は世論に委ねるべき性質のものではなく、政府が責任をもって総合的に判断し、国民に理解を求めるべきものと考えます。

 仮にもこの努力を怠れば、日米同盟は形骸化し、米国は我が国の頭越しに中国などとの間ですべてを決めてしまうことになりかねません。

 今年も、我が国の覚悟と見識が試される極めて厳しく重要な年になるものと考えられます。


108号 21.10.10 民主党政権への要望 小柳 毫向  (全国防衛協会連合会常任理事)

                             

                           
 先の総選挙でいよいよ民主党を中心とする政権が誕生した。選挙前のある世論調査では、政権担当能力は圧倒的に自民党が支持を得ていたが、それでも民主党を選んだのは国民がチェンジを望んでいたためであろう。国民が民主党の政権担当能力を不安に思うのは、民主党の外交・安全保障政策が未知数なためと思われるが、折角政権の座に就いたのだから政権担当能力ありというところを是非見せてもらいたい。

安全保障の根幹は言うまでもなく自らの防衛努力であり、自衛隊に関する施策を適切に行うことが政権担当能力を示す重要な要因となる。今自衛隊は完全なるシビリアンコントロール下におかれており、これに異を唱える自衛官は一人としていない。しかしシビリアンコントロールとは、自衛隊を運用する場合その手足を縛ることと心得ている政治家が大多数であるが、運用の主体となる制服集団を正しく理解し、自衛官が士気高らかに任務に邁進しうる態勢を造ることこそシビリアンコントロールの出発点である。そこで現役自衛官が困っていること3点について民主党政権に要望したい。

                          防衛省改革の見直し

元次官の不祥事、海自のあたご事案における情報伝達の不備を契機とし防衛省改革が行われているが、その内容は首肯しうる面もあるが、陸・海・空幕僚監部が持つ防衛力整備機能を内局に集中することは極めて大きな問題だ。運用と防衛力整備は防衛機能の2本柱であり、これは各幕僚監部から末端の部隊に至るまで一貫して保持すべき機能である。統合運用の観点から運用を統合幕僚監部に集中したのはやむを得ないにしても、防衛力整備を内局に集中すれば各幕僚監部の最も重要な防衛機能を完全に骨抜きにしてしまう。一方内局は人件費を除く防衛費の大部分を運用する権限を一手に握ってしまう。

改革の重要な原点は元次官が起こした不祥事を二度と起こさないこと、つまり大きな権限を持つ次官の権限をいかに分散するかが検討すべき方向であったはずであるが、次官の権限をさらに拡大する真逆の結論となっている。この改革について市ヶ谷に勤務する若い自衛官に聞いてみると十人中十人が反対しており、自衛官の士気を著しく低下させる改悪となっている。

何故このような改悪が行われようとしているのか、それは某大臣の強い指示があったからと聞く。政治家個人の信念や考えで自衛官の士気を低下させるような改悪を押しつけるのは正しいシビリアンコントロールとは言えない。民主党政権において是非とも制服の本音を聞いて見直すべきは見直してもらいたい。

                        防衛費・人員の削減に歯止めを

民主党の政策を実現させるため、現行の予算を見直し無駄を無くして財源を捻出するとしているが、防衛費を同列に論じてもらいたくない。

列国が軍事費を増額する中にあってわが国の防衛費は平成14年度をピークに7年連続削減されている。防衛費の約半分は人件費であり、さらに近年ミサイル防衛に多額の予算が投入されその反動として他の装備品は老朽化が目立ち、故障が多く修理費が不十分なため、装備品相互の部品の共食いが行われ結果として稼働率が著しく低下している。施設整備費も潤沢でなく隊員の勤務・居住環境は劣悪化している。

また任務が拡大する中で、例えば陸上自衛隊は平成7年に18万人あった定員が現在は約15万人に削減され、加えて総人件費抑制の施策により実員が5%カットされるため、隊員の負担は極めて増大している。人員のカットは採用を抑制することにより達成しているため階級・年齢構成は今の日本の少子化と同傾向を示し、将来戦力構成に問題を生じることとなる。

 更に、陸は18万定員時と同じ150を超える駐・分屯地を維持しているが、その管理や警備に相当の隊力を必要とし、相対的に第一線の戦力が低下し、かつ教育訓練の時間が年々減少し練度に影響している。政治の責任において人・物全てに亘り防衛力の実態を点検し必要な人・予算を与えるべきである。

                           自衛官の処遇改善を

自衛官の処遇特に給与は他の公務員に比し恵まれていない。例えば一選抜で将になった者と内局のキャリアーでは生涯所得において約5000万円の差があり、将補以下も任務の特性上若年定年制を採用しているため一般公務員に比し同程度の差が生じている。

退職してもすぐに年金が貰えるわけでなく、特に地方で再就職した者の給与は退職時給与の三分の一程度あるいはそれ以下になるのが常態である。

 米国では20年勤務すれば退職時給与の約80%の恩給が生涯、結婚している場合は夫婦が両方亡くなるまで支給される。中国でも軍人は共産党員並みの年金が支給される。各国とも国の防衛に任じた者には手厚い処遇がなされている。わが国は冷遇とはいわないが、十分な処遇を与えていない。自衛官独自の給与体系を作成するとともに、若くして退職する隊員の再就職援護施策をさらに充実させてもらいたい。

107号 21.7.1 日本の領土」問題  大串 康夫  (全国防衛協会連合会常任理事

                            

                           
 日本の領土問題と言えば、多くの人は「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」を挙げるに違いない。しかし、日本政府が公式に領土問題としているのは、昭和20年8月、終戦後の混乱期にソ連に侵略され住民が抵抗の術なく島から根こそぎ追い出された「北方領土」と昭和2712月、韓国が一方的に李承晩ラインの中に取り込んで日本の平和外交姿勢を尻目に韓国が強奪・不法占拠している「竹島」である。

中国と台湾が領有権を主張している「尖閣諸島」は、日本が海上保安庁の巡視船を配備して実効支配しているので領土問題は存在しないとの立場である。果たして、奪われた島々だけが領土問題なのであろうか?

隣国の領有権主張は、「尖閣諸島」だけに留まらない。韓国が国会決議までして韓国のものだと主張しはじめた「対馬」、中国が一方的に開発を進める日中境界線近傍の東シナ海の「海底ガス田」、中国が岩礁による日本のEEZ(排他的経済水域)は認められないと主張する「沖ノ鳥島」に及ぶ

更に、ある中国の学者は沖縄列島について、「歴史的に中国に朝貢していた琉球王国は、中国の国力疲弊に乗じて日本が吸収合併したもので、日本の敗戦後に占領統治した米国が中国の了解なしに日本に帰属させたのは認められない」とまで言っている。奪われるかも知れない島々も全て日本の領土問題として認識すべきである。

領土と国民は国家存立、国家主権の基盤である。国際的に、領土と国民に対する干渉と侵害は、国家の統治権に対する重大な侮辱であり、戦争挑発行為であると認識されている。領土は1Cmも外国の不法占拠を許してはならないし、国民は1人たりとも外国による拉致を許してはならない。然るにわが国は何故こうも領土の不法占拠と国民拉致が放置され、一向に取り戻せないのであろうか?

5月11日にロシアのプーチン首相が来日したが、懸案の北方四島問題は受け流されて何ら進展がなかった。世論・メディアの反発も低調で、今一つ盛り上がらなかったのが口惜しい。国民の国家主権、国益意識が希薄だという前に、政府首脳が軽々に4島一括返還論から「面積半分の3.5島返還論」への後退を口にするようでは最初から利害対立の外交交渉では負けている。ロシア政府高官は、「日本の対露交渉の基軸は固まっていないようだ。領土問題の解決よりも経済・エネルギー面での協力関係を望んでいる」と揶揄したと言う。一国民として政府には強固な信念に基づいたブレの無い外交戦略を貫くよう強く望みたい。

わが国は、総数7,000近い島嶼を有する島国、海洋国家である。小さな無人島であっても、島を基点とする200海里の経済水域は大きな海洋権益であり、豊富な海洋、漁業、海底資源を有する。更に貿易立国の日本にとって島嶼は、物資輸出入のシーレーン(海上輸送路)の防波堤である。政府は国民に対して、広く小学生に至るまで、その国益意識を高める施策を講じるべきである。

隣国との境界に位置する島嶼は、国防の最前線であると同時に、隣国との友好の架け橋でもある。領土問題は、正に「平和と対立」の分岐点であるだけに、隣国の主張や行われている国民教育などを承知しておく必要がある。外交交渉では、それぞれの国が確信をもって国益外交を展開するので解決の道は険しく、忍耐を要する。この忍耐外交を支えるものこそ国民世論の支持であり、国民の国家主権と国益を守る気概である。 韓国では小学生からの国民教育として「独島(竹島)の歌」を通してその歴史的経緯と領土領海の大切さを教えており、世論は竹島を巡る日本の動きに敏感に反応する。翻ってわが国ではどうであろうか。


106号 21.4.1 国際協力と武器使用  大越 康弘  (全国防衛協会連合会常任理事


                            

                           海賊対処は当然

 平成21年は、アフリカ・ソマリア沖の海賊対処のための自衛隊派遣の話題で始まった。 日本との間を多数のタンカー・貨物船が頻繁に航行し、多くの国が艦艇を出して取締りを行っていることを考えれば、海上自衛隊を派遣して取締りに当たらせるのは当然であり、世界の平和・安全の維持に貢献することにもなる。

                           海賊対処は当然

問題は、任務付与及び武器の使用などの強制措置権限にある。 海賊の不法行為を抑制、対処するためには、諸外国の艦艇と協力しながらも、いざという時に武器を使用して相手を威嚇し、抵抗に対しては制圧することができなければ効果的な措置をとることができない。 また、同様の任務を遂行している諸外国艦艇の不信を招く。

 自衛隊の武器使用については、従来から憲法解釈上の制約が議論されてきた。 政府の憲法解釈は、「自衛隊の武力行使は、わが国防衛のための必要最小限度に限られる」としている。 問題は、個々の武器の使用が憲法上の「武力行使」に当たるかどうかである。

まず、憲法上問題になるのは自衛権の行使たる武器の使用である。 国又はそれに準ずる団体に該当しない海賊は、平穏な治安を乱す武力集団にすぎないので警察権行使の対象となり、自衛隊が武器を使用しても憲法上の問題は生じない。 しかし、今回の派遣の法的根拠とした「海上警備行動」においては、原則、正当防衛及び緊急避難のほかは相手に危害を与えることは許されない。 したがって、他国の軍隊と同様、自衛隊が効果的な海賊対処ができるよう武器使用権限を含む任務規定の法的措置を速やかに行い、派遣された自衛隊員が安心して任務遂行に専念できるようにすべきである。

                          「集団安全保障」が至当

自衛隊の海外派遣先として次に検討されるべきはアフガニスタンである。 国連を中心として諸外国が協力してテロを撲滅し、国際平和を構築するためにも、何らかの形でのアフガニスタンへの派遣を考えていかねばならないだろう。

国際平和維持活動等を行う自衛隊の武器使用に関し、それを効果的なものにするため集団的自衛権の行使を認めるようにすべきとの主張がたびたび出てくる。 しかしこれは、共同して活動している中国軍隊を平和破壊集団(国又はそれに準ずる団体を前提)から防護するために、同盟関係にない中国軍との「集団的自衛権」を基に武力行使をすべきだ、という奇妙なことになる。

 平和維持活動等における自衛隊の武器使用は日本を自衛するためではなく、その地域の国際平和を維持・構築するためである。 したがって、ここでいう武力行使は「集団的自衛権の行使」ではなく、いわゆる悪いやつを共同で懲らしめる「集団安全保障措置」として捉えるのが正しい。 なぜなら、平和破壊集団が自衛隊を攻撃したとしても、日本を侵略する目的ではなく、地域の平和を破壊する行為の一環であるから、国連を中心に武力組織を形成し、これを排除、制裁して平和を回復するという「集団安全保障措置」を行っているみるべきである。

 「集団安全保障措置」は、第2次大戦後、国際情勢の変化に応じ、世界平和の維持、構築のために新たに生まれてきた現実的措置であって、概念、要件等は必ずしも確立していない。 しかし、自衛権の行使ではなく「集団安全保障措置」という概念、範疇での武器使用ということであれば、他国の侵略に繋がるような武力行使を禁じた憲法の趣旨に反するものでなく、むしろ国際平和維持を願う諸外国と共に行動するものだから憲法の趣旨に合致する。

 このように考えると、これまでの政府の憲法解釈を180度ひっくり返すものではなく、国民はもとより外国の反対もないのではないか。

105号 21.1.1 新春防衛時評  日吉 章 (全国防衛協会連合会副会長兼理事長)
中国の台頭と日米関係

                         

                          新年おめでとうございます。
         今年は、東西冷戦の象徴であったベルリンの壁が破られて二十年になります。

 冷戦終焉後、世界は唯一の超大国となった米国による一極支配の時代に入りました。しかし、最近ではイラク戦争の躓きとサブプライムローン問題に端を発する世界的な金融経済危機の発生により、米国の影響力は著しく低下しています。

 その間にあって、いわゆる新興国の台頭には目覚しいものがあり、なかでも中国はその驚異的な経済発展を背景に各方面で国際的影響力を増し、軍事力の増強近代化も強力に進めています。また、ロシアはその豊富なエネルギー資源を梃子に強権国家への回帰志向を強めています。

 このような情勢の中で、わが国と米国との間にも、例えば北朝鮮の核への対応などに見られるように微妙な差異が生じてきています。

 中国については、一党独裁の政治体制、民族問題、地域間或いは貧富間格差の拡大等を理由に崩壊を予測する向きもあります。しかし、いずれにしても十三億人の人口を擁し、核を保有し、経済面でも世界最大の外貨準備高を誇り、日中の貿易額が日米のそれを凌駕するに至っている状況等から、その帰趨がわが国を含め世界に極めて大きな影響を与えることは間違いありません。

 わが国にとっては、今後この隣国中国とどのように付き合っていくかということが、外交、安全保障、経済上最大の課題になるものと思われます。

 これに適切に対処するためには、先ずは何よりも依然として世界の超大国であり自由と民主主義尊重の価値観を共有する米国との同盟関係を確固たるものにしておくことが不可欠です。しかし、それは単に同盟関係を結んでさえいれば足りるというものではなく、この同盟が米国にとっても必要不可欠なものでなければなりません。

具体的には、確かに米軍への基地の提供や集団的自衛権行使等の問題も重要ですが、より基本的には、わが国の地理的条件や経済社会文化等各般に亘って深く関わり合ってきたアジア、特に中国との歴史的関係等から得られるわが国ならではの情報なり見識等を米国に示し、米国の足らざるところを補完する役割を果たすことが最も重要と考えます。仮にもこの役割を充分に果し得ないとすれば、米国は正に文字どおりわが国の頭越しに全てを中国と直取引で決めてしまうことになることが懸念されます。

本年は、近く発足する米国新政権との間で、如何にして真に信頼性の高い同盟関係を築くことができるか、わが国の覚悟が試される極めて重要な年になるものと考えます。

104号 20.10.1 民主主義を有効に機能させるために  山本 誠  (全国防衛協会連合会常任理事

                  民主主義を有効に機能させるために

                            

 我が国は今、衆参捻れ国会の中で、行き詰まる各種政策を巡って弥縫に弥縫を重ね、右往左往しているのが実態である。

 相手を潰す為に反対し、票の為に大衆受けのする目標を掲げて国益を無視した行動に走る野党。人の嫌がることはしないなどといった無気力な外交を続ける政府与党。日本は一体何処に行ってしまうのか。

 物事のよく分かった識者でも一票、よく分からぬまま世相に付和雷同する人々も一票、国の行く末をよく考えて投票するのも一票、政治に無関心で棄権するのも同じ一票である。しかし、日本の行方は確実にこれらの一票によって左右される。

 民主主義は次善の政治体制と言われるが、一歩誤れば衆愚政治に陥る危険性を孕んでいると云うことを如実に感じる今日この頃である。

 ではこういった情勢に中で、我々は一体何が出来るのか。
 答は一つ。出来るだけ多くの人々に物事の本質を理解してもらう様啓蒙活動を根気よく続けるより他に方法はない。

 こういった観点から、国家の基本とも云うべき安全保障について、世の中一般の認識はどの程度のものであろうか。

 一般大衆に最も影響力があるのはテレビ放送であるが、その中で、例えば基地問題に関する座談会や、防衛問題を取り扱う番組において、殆どの出演者は現状を、水や空気のように天から与えられた既成事実として捉え、議論を進めている。

 学者や識者と言われる人々は、「日米同盟が何故必要か」とか、「米軍基地が何故必要か」とかいったところまで遡った話はしないし、地域住民の代表やタレントといった人々は、食料や日常品はスーパーやコンビニに行けば何時でも手に入るし、ガソリンはガソリンスタンドに行けば値段の高低は別にして何時でも補給出来るといった安定した情勢を前提にして物を言っている。

 今時の子供たちの多くは、白米はスーパーやコンビニで手に入るものであり、水は水道の蛇口を捻れば出てくるものだと思い込んでいる。

 ある国の王様が日本にやって来て、捻れば水が出る水道の蛇口を観て、これは便利だといってお土産に沢山買って帰ったと言う寓話を今の大人が笑えるのだろうか。

 食料(カロリーベース)60%、エネルギーの95%、レアメタルを含む鉱物資源の100%、その他諸々の資源を海外からの輸入に頼り、そのルートであるシーレーンと地域の安定を確保し、貿易秩序を維持することによって、我々は毎日スーパーやコンビニで欲しいものを手に入れ、ガソリンスタンドでガソリンを補給し、豊かな生活を享受できているのである。

 そしてこの繁栄を支える為には、好むと好まざるに関らず、この地域・海域に重大な影響力を有するスーパーパワーであるアメリカとの連携が、我が国にとって死活的に重要なのである。ところが問題は、多くの人々がこの因果関係をよく認識していないところにある。こういった本質的なことをどうやって多くの人々に理解してもらうのか。

 学者や識者の難しい論文を配布しても、最初の1頁を読んだだけで飽きられてしまう。要は、どうやって大衆の目を引き、関心を持ってもらうのかと云うことである。

 防衛協会においてはこの点に注目し、出来るだけ多くの人々に、「我が国は戦後何故繁栄出来たのか」、「この繁栄を続ける為にはどうすればよいのか」といったことを分かり易く説明し、極力多くの人々に理解してもらう様、「やさしい安全保障の話」としてパンフレット状に纏めるべく、鋭意努力しているところである。


103号 20.7.1 21世紀における海洋の安全  山崎  眞  (全国防衛協会連合会常任理事
防衛省改革に思うこと

 昨今、石油価格の高騰、食料・各種原料の値上げなどが生起したことにより、わが国がエネルギー源や食料、原料の大部分を輸入に頼っていることが改めてクローズアップされてきた。食料安全保障についての真面目な議論も起りつつある。

 わが国は石油の99パーセント、小麦の87パーセント、食用大豆の75パーセント、トウモロコシはほぼ100パーセント、その他鉄鉱石、レアメタルなどもその100パーセントを輸入に頼っている。

 戦後六十年、我が国が経済的に発展してきたのは海を自由に使えることによって、このような原料などを支障なく輸入し、製品を輸出できたからである。

海洋の不安定化

 冷戦時代には、米ソの二大軍事力が対峙していたことにより、海洋においても米ソの二大海軍力が拮抗し、海洋の安定が保たれていた。冷戦が終結すると、このような海軍力のバランスが崩れ、海洋における不安定の要素が増した。

 このため、民族・宗教などによる対立が表面化し、これらの集団・組織の資金稼ぎのための海賊・不法行為などが発生するようになった。また、2000年以後になると、主としてイスラム原理主義者による海洋テロが頻繁に発生するようになった。

 このような状況により、海洋の安全と安定は冷戦時代よりもむしろ悪化しつつあり、世界の経済に与える影響が無視できないようになってきた。

 例えば、マラッカ海峡は世界の石油輸送量の50パーセント、貿易量の30パーセントが通過しており、もしここが機雷等のテロにより封鎖された場合は世界の経済は恐慌に近い状況になると言われている。

 現在、世界の貿易の90パーセントは海上輸送によっている。また、世界の人口の75パーセント、首都の80パーセントが沿岸地帯にある。

 したがって、海洋の安全は、世界経済の要であり、人類生存のための基盤であると言える。特に、海洋国であるわが国にとってはこれが重要である。

わが国の海洋政策

 従来、わが国の海洋政策は縦割りの官庁組織により一貫した筋の通ったものがなく、このために海洋における国益を失いつつある状況にあった。

 安倍前政権は、このような状況に鑑み、強い政治力を発揮して国としての態勢を整えるために平成19年7月に「海洋法」を施行した。引き続き、本年4月福田政権により同法に基づく「海洋基本計画」が閣議決定された。

世界の動向

 一方、海洋の安全と安定を重視する米国は昨年10月、約25年ぶりに「新海洋戦略」を公表した。これは、同盟国・友好国との強い連携により世界の海洋の安全と安定を獲得しようという新しい考え方である。

 海上自衛隊がインド洋における多国籍艦隊に部隊を派遣しているのも、このような考え方に合致するものである。今や一国で世界の海洋の安全を守れる国はない。世界の海軍・コーストガードなどの力を結集することによってのみ海の平和が獲得できる。

海洋戦略の必要性

 わが国は、このような世界戦略に積極的に協力することが必要である。

 海上自衛隊の現兵力は、新防衛大綱による陸海空自衛隊の兵力削減の煽りを受けて、世界の海洋の安全・安定に寄与し、かつわが国の海洋、すなわち世界第六位の広さをもち資源が豊富な我が排他的経済水域(EEZ)の権益を守るには不十分である。

 海上保安庁にしても然りである。わが国は、自国の生存と繁栄並びに地域の安定のために、21世紀における確固たる海洋戦略(海上安全保障戦略)を確立する必要がある。


102号 20.4.1 防衛省改革に思うこと  小柳  毫向   (全国防衛協会連合会常任理事
防衛省改革に思うこと
                          

守屋前次官の不祥事を機に防衛省の中央組織を抜本的に改革しようとする動きが始まった。自衛隊は大別して制服集団とシビルの集団に区分することができる。

陸海空に必要な予算は制服が財務省に対し行い、査定された予算の執行は一部を除いてはシビルの組織が行う。予算執行の段階で利権が生じ利権のあるところ腐敗が生じるのは政官民を問わずあらゆる組織に共通するところ。

不祥事の再発防止のためなら利権を持つ組織や仕事のやり方を見直せば済むと思っていた矢先に、イージス艦と漁船の衝突事故が起こった。

先の情報漏洩やインド洋での給油問題に加え、この事故により海自のたるみが指摘されるに止まらず、事故報告の不手際、事故についての説明の不手際により福田総理から防衛省の組織そのものに問題があるとの指摘を受け、世論も同じような認識を持つに至り、今や抜本的な改革は至上命題になった感がある。

抜本的改革には異論もあるが改革やむなしとするならば是非考えてもらいたいこと3点について問題提起をしておきたい。

                           参事官制度の見直し

旧軍においては、陸海軍大臣は現役軍人でなければならない規定があり、さらに軍人は総理はじめ他大臣に就くことも可能であった。

加えて統帥権という錦の御旗が軍に与えられていたため、明治憲法下では軍が強くなり横暴になるのは当然の帰結であった。この反省に立って自衛隊発足時、制服を私服のコントロール下におく趣旨で創り上げたのが参事官制度である。

防衛省の各局長は参事官であり、局長以外の参事官にもそれぞれ所掌任務が与えられており、自衛隊の人事・情報・作戦・兵站全ての分野において参事官がコントロールする権限が与えられている。

昭和60年頃迄、一部ではあるが制服に対し極めて横暴なキャリアーがいた。昔軍人今官僚と言われたのもその頃である。PKOを始めとする運用の時代になりキャリアーの制服に対する態度意識も変わってきたのは事実ではあるが、参事官制度という錦の御旗がある限り内局による制服のコントロール体制は変わらない。

真のシビリアンコントロールとは、政治が軍をコントロールすることであり、内局のシビルが制服をコントロールすることではない。

大臣補佐機能としての参事官制度が必要ならば内局とは切り離し、例えば次官・統幕長・陸海空幕僚長の経験者等をもって新たな参事官制度を創るのも一案であろう。改革にあたってまず検討すべき課題である。

                           改革は運用を基本とすべし

自衛隊が対応すべき事態が生じた時、迅速的確に対応できなければ自衛隊の存在価値が問われる。対応すべき事態は複雑多様化しかつ即時性が求められため、運用については運用に長けた制服が直接大臣を補佐すべきである。少なくとも作戦運用について、官僚が制服をコントロールしている国は世界中どこにもない。

 また制服が運用について補佐する機能は単に防衛省内に止まらず、最高指揮官である総理まで補佐しうる体制であることが望ましい。

さらに改革にあたって留意すべきは、新たな組織を創った場合、その組織が十分に機能を発揮するにはかなりの時間を必要とすることである。このため改革直後にいかなる事態が起こっても対応し得るよう、段階的にしかも十分に時間をかけて行うべきであろう。

                                制服の処遇改善

参事官制度を踏まえれば、コントロールするキャリアーよりコントロールされる制服を階級的に一段と低く抑えるのは当然のことであったであろう。

防衛省の所謂キャリアーの年間採用数は平均12名であるが、指定職ポストは42ある。これに対し自衛官の防大・一般大の採用数は約600名であるが、制服の指定職ポストは90に過ぎない。

キャリアーは全員が局長級のポストに就くが、制服は局長級に相当する方面総監・自衛艦隊司令官・航空総隊司令官に就きうるのはごくごく限られた人である。

このためキャリアーと制服の一選抜昇任で将官になった者との生涯給与は5千万円以上の差が生じる。また制服組の制度・組織はその任務の特性上、他官庁と異なる特異性を有する。

 例えば防衛上災害対処上全国に分散配置されているが、これを他省庁の出先機関と同列に論じてはならないし、戦う集団であるため若年定年制を採っており、一般公務員や公安職と同等に扱えば処遇上自衛官は不利益を被ることになる。

一朝有事に国に殉ずる自衛官を、国や国民はもう少し大事にすべきではないか。このため自衛官独自の給与体系の新設が必要であり再就職援護についても格段の配慮が必要である。


101号 20.1.1 新春防衛時評  日吉  章  (全国防衛協会連合会理事長
国益と国際協力


                        
   
 
新年おめでとうごいます。この会報がお手許に届く頃にはインド洋での補給活動が再開されていることを願いつつ、この問題について少し考えてみたいと思います。

 国連の決議(国際社会に対するテロの防止と抑止に向けての努力の要請)を受けて、現在国際社会は連携してアフガニスタンやその周辺地域でテロを防止抑止するための活動を行っています。

 地上では、@多国籍軍によるテロ組織の掃討作戦、A国連決議により創設された国際治安支援部隊による治安活動、Bこの治安支援部隊の指揮の下での軍民合同チームによる復興支援活動が、
 海上では、C武器の流出入や麻薬売買による資金の流出入とテロリストの出入国の阻止活動が行われています。

 地上での活動では犠牲者も出ていますが、これらの活動にはイラク戦争に反対したフランスやドイツも含め40カ国以上の国が参加しており、世界の主要国で参加していないのはロシアと中国だけです。

 このような状況の中で、わが国は昨年11月1日までは洋上補給活動を行うことにより上記Cの海上阻止活動を支援してきました。

 わが国が各種の活動の中でこの活動を選んだのは、その他の活動では憲法に抵触しないかとの議論が出てくるおそれがあり、仮に認められるとしても現行の法制や武器使用基準などでは他国に伍して十分な役割を果せないことが危惧されること、これに対しわが国には世界に誇れる洋上補給の技術と能力があり、しかも洋上阻止活動の行われている海域がわが国の輸入原油の9割を占める中東からの原油の航路にあたり、この活動がその航路の安全の確保にも繋がることなどによるものと考えられます。

しかし、この活動はその根拠となる法律が野党の反対により期限切れとなり中断の已むなきに至り、現在のところ再開のめどが立っていません。

 この種の活動をわが国ではしばしば国際協力とか国際貢献と呼んでいますが、これはすぐれてわが国の国益に係る問題でもあります。

 わが国は国土が狭く資源やエネルギーにも恵まれないため、世界が平和で貿易が盛んに行われ、いざというときには国際社会の支援が得られるように普段から心がけておく必要があります。

 また、今年はサミットがわが国で開かれますが、先年の英国の例でも分るように、開催国としてその際のテロ対策も十分に講じておかなければなりません。この問題はこれらの視点からもよく考えてみることが肝要です。

幸いにしてわが国は民主主義国家です。民意と世論によってこの事態を打開することができなくはないと考えられます。防衛協会としても、その目的とする防衛意識普及活動の一環として、いささかなりとも政治を動かし得る正しい世論の形成に寄与したいものです。

100号 19.10.23 自衛隊は軍隊か?  横地 光明  (全国防衛協会連合会相談役)

      ― 実態上は重き責任を果たし、建前で軽く扱う ―

 このところ、『こんなに強い自衛隊』という本が良く売れ、自衛隊への関心の高まりが伺われる。その帯には[ここに世界屈指の軍隊がある]と書いてある。

 ある本によると、自衛隊は世界第5位の精強な軍隊だそうだ。海自高官が米海軍首脳に、「海自の能力はNATO海軍を上まわり最も信頼できる同盟海軍だ」と言われ、びっくりしたと言う。

 確かにイージス艦4〜5隻を中核とする約45万トンの新鋭艦艇と対潜機100機を擁する海自は、世界の海軍中屈指であろう。

 また最高性能のF-15約200機とF-2等約100機を揃える空自は世界の空軍の中でも有数であろう。

 更に、規模は決して大きくないが、優秀な装備を保有し、高い練度をもつ陸自は列強陸軍に引けをとるまい。

 政府も「自衛隊は、外国からの侵攻に対する任務を有するが、こういうものを軍隊というならば、自衛隊も軍隊という事ができる」と言っている。然し、政府は「自衛隊には憲法9条の制約がかぶっており、普通の諸外国の軍隊とは違う」とも言っている。

 そこで自衛隊の本質が問題になってくる。確かに自衛隊の任務・機能・組織・機構・装備は外見上立派な軍隊だろう。だがそれでは法的地位が軍隊かと言うと決してそうではあるまい。(ぬえ)のような奇怪な存在ゆえに悲劇が起こる。従って、自衛隊は国民に深く定着しているからとして、これを不問に付することは出来ない。

 自衛隊がどうしても軍隊になれない理由を挙げてみよう。

 @ 憲法9条2項に「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とあり、わが国が軍隊を保有する道は完全に断たれている。

 A 防衛省は国家行政組織法により設置された行政機関であり、陸海空の3自衛隊はその特別の機関で、行政機関のほかあり得ない。

 B 自衛隊を構成する自衛官は、国家公務員法の定める特別公務員で、立法職員(国会議員等)でも司法職員(裁判官等)でもないから、防衛行政職員であり軍人ではない。軍人のないところに軍隊はあり得ない。

 C 軍隊の基本要件は、特別の内部規律を律するため軍事裁判所を有し、権能はネガティブリストで規定され、行動の基礎を交戦権に置くが、自衛隊は何れの条件をも満たさない。即ち憲法の規定上、特別裁判所は持てず、権能はポジティブリストで規制され、他国軍隊のように国際法規・慣例以外は自由に行動することは出来ない。また作戦行動の基礎である交戦権は憲法で認められていない。

 D憲法体系上、わが国では限定行政控除説(註)は通説でないので、国家統治作用は総て立法、司法、行政に区分され、国防機能も完全に行政に組み込まれている。

 自衛隊がどんなに他国軍隊を凌駕する戦力を有しようとも、これが憲法上の自衛隊の本質である。

 然し、厳しい国際情勢の中で主権国家が裸で国の安全を期し得ないから、実質上軍隊の自衛隊を置き、首相や大臣は「国防は国家存立の基本、国政の柱であり、自衛隊員はこの崇高な使命に精励し国民の負託に応えよ」と訓示し、「事に臨んでは身をもって責務の完遂に努めよ」と非常かつ重大な責任を課す。

 即ちある時は軍隊のように装わせ、ある時はそうでないように都合よく扱う。その結果、任務は軍隊のように重く要求されるが扱いは蔑ろにして顧みられない。例えばイラクに自衛隊を派遣し、命を賭けて任務に当らせながら、出入国には制服はだめで、背広で外国機を利用しろなどと派遣隊員の誇りも心情も無視することを平気で行なうことになる。

 孔子は「士は己を知る者のために死す」と言い、西郷南洲は「平日の信は、功を臨時に収む」と遺訓した。

 自衛隊員に国家を信ずる心を失わせたら、どうして一朝有事の時、その任に殉ずることを求め得ようか。また自衛隊を鵺のように扱ったり、憲法で禁止しながら強力な軍隊を持つのでは、言行不一致から諸外国の不信を招く。

 現在の国際環境では、主権国家が軍隊を持たざるを得ないことを広く国民に理解させることが肝要である。これを要するに憲法の速やかな改正と国防軍の設置が求められる。

(註):限定行政控除説とは全国家作用に立法、司法、行政の他に軍隊の統帥・編制大権などがあるとする考え方

99号 19.7.23   望まれる安保政策の充実強化  大串 康夫  (全国防衛協会連合会常任理事)

                    望まれる安保政策の充実強化

本年1月の、防衛庁の防衛省への移行は、省昇格を提言要望し続けて来た全国防衛協会連合会の一員として欣快な思いであった。

戦後の戦争アレルギーとイデオロギー論争の風潮の中で発足した自衛隊は、他省庁よりも一段下に置かれて日陰者扱いされてきた思いもがあるが、今回の省昇格は、創設以来の隊員諸氏の、誠実かつ地道な努力と実績が国民に広く認められたものであり、心から祝福したい。と同時に、近年の国際平和協力活動の活発化、更には、わが国周辺情勢の緊迫化を踏まえて、日本政府として安全保障政策推進の強い意思を内外に示したもので極めて意義深い。

しかし「省昇格」で、わが国の防衛体制が堅固になるわけではない。わが国の安全保障を全うするためには、集団的自衛権の行使禁止、専守防衛政策と敵地攻撃能力の保有禁止、非核3原則と核抑止戦略の問題、武器輸出3原則と国際共同開発・生産への制限、宇宙平和利用原則と防衛システム高度化への制約、防衛予算の抑圧と防衛力の相対的低下、安全保障基本法・国際平和協力基本法の不備など、わが国の防衛の解決すべき問題が山積している。

これらの諸問題は、わが国の防衛および国際平和協力活動等に於ける現場の自衛隊部隊の行動と国際信義を著しく阻害している。早急な「安全保障政策の充実強化」への政治決断と具体的な政策推進が望まれる。

その元凶は特異な平和憲法であり、戦争放棄、軍隊不保有の第9条規定とその解釈論である。今般、国民投票法が成立し憲法改正への動きが現実味を帯びてきた。

  また政府は、「安全保障の法的基盤に再構築に関する懇談会」を設置し、集団的自衛権の行使についての見直し検討を開始した。

   しかし、過去の論争経緯と政争戦略、メディアのミスリード、国民の関心の低さなどを考えれば、憲法改正は元より、集団的自衛権行使への解釈変更についても国民的合意を得るには相当の年月を要するであろう。顕在化する脅威と情勢緊迫に時間的余裕はそんなに無い。

  政府には、防衛態勢と法的基盤の不備の現状認識をもって、機を失することなき政治決断を望みたい。断行しても態勢強化には、また多大な時日を要することを忘れてはならない。

 実務経験を通じて国際軍事とわが国防衛の実情を知り、識見と志の高い人士を国政の場に送り出し、安全保障政策に反映することが、喫緊の重要事ではないだろうか。

98号 19.4.23   国家の「独立」に思う   横田 泰彦  (京都府防衛協会常務理事)


                         国家の「独立」に思う
                           
                         

 今日に至っても、大東亜戦争に関する新聞・テレビの報道では、「謝罪」の言葉だけが飛び交い、今次大戦が民族の興亡を象徴する一大叙事詩であった視点がすっぽり埋没し、アジア諸国の解放と独立にわが日本が果たした役割が忘却されている。我国はもっと自信を持っていい。

 日本は朝鮮、台湾及び南洋諸島において統監政治等を行ったが、インフラ整備や教育・衛生などに国内以上の投資を行い、植民地としてではなく友邦として扱った。事実、『帝国統計年鑑』等では、台湾・朝鮮を含めて「本邦」と記述している。今でも台湾や南洋では「日本精神」が語り継がれ、「感謝」の言葉さえ聞かれる。英蘭仏等(宗主国)の植民地行政に比較すると善政とさえ映った。

 日本の姿勢は戦後も変わらず、日本の援助で1970年に起工した浦項総合製鉄所(韓国)の粗鋼生産量は新日鉄を上回っており、経済発展の基幹になっている。

 他方、日本は史上初めて米国の占領行政を受けたが、冷戦の勃発で同盟国になった。

 こうして、日本は「解放・独立」の尊さを身に沁みて感じ取ることができない。従って、独立のために命を落とした先人たちへの尊崇でも、靖国問題のように外国の指嗾 (しそう)で混乱させられる。

 今日の極東アジア情勢は緊張しており、日本が現在置かれた立場に目覚めないならば、他国の意図で振り回され、早晩「独立」国家の体をなさなくなるであろう。

 英蘭仏の桎梏 (しっこく)からインドや東南アジア諸国を開放する原動力となった藤原岩市少佐の行動を瞥見 (べっけん)して参考に供したい。

 少佐は武力なくして独立はないと確信し、マレー、シンガポール作戦で日本軍の俘虜となったインド将兵の中からモハン・シン大尉を選び、誠心誠意、情熱を込めて説得した。大尉は捕虜から師団兵を募り、インド国民軍(INA)を創設する。

 昭和17年2月17日、5万の将兵を前にしたファラパーク(シンガポール)での少佐の「使命と理念」演説は歴史的宣言として印度独立運動史に残されている。

 紆余曲折を得て、INAは抗英闘士のスバス・チャンドラ・ボーズに引き渡され、強烈な精神教育を行って、新しい魂を吹き込むことに成功する。ボーズは「日本軍がシンガポールへ、シンガポールへと雄叫びを上げながら進撃したように、チェロ・デリー、チェロ・デリー(デリーへ、デリーへ)と叫ぼう、デリーが再び我らのものとなるまで」と鼓舞し続け、ついにインドを英国から取り戻す。ここに印度独立に賭けたS.C.ボーズと藤原少佐2人の夢が実現することとなった。

 国民外交協会の山本東吉氏が昭和1969年、ロンドンを訪問した際、或るアジア通の英国人が「(印度は)INAの生みの親、藤原少佐にさらわれたようなものだ。彼の業績はアラビアのロレンスとは比較にならぬ偉大なものだ。日本ではさぞかし彼を世紀の英雄として崇敬していることだろうな」と語ったという。

 英雄どころか、名前さえ知らない人が多いが、それは「植民地」を経験しなかった日本人の「独立」に対する感性の鈍さがもたらすものではないだろうか。

 藤原氏は「独立」の尊さを知るだけに、自衛隊に入った後も、国家の守りに捧げた人を顕彰する気持ちが人一倍強く、12師団長時代は麾下部隊に管内市町村忠魂碑の敬拝礼励行を要望した。

 靖国神社の部隊参拝は占領憲法によってご法度になっていたが、続く1師団長時代は個人の全責任において幕僚並びに各部隊代表と隊旗を随え、靖国神社に堂々と部隊参拝した。

 むしろ問題となって、広く国民良識の審判を受けることを心密かに期待していた故の覚悟の行動であった。「午前6時の境内は静寂森厳そのものであった。宮司が権宮司等を随えてむかえた。部隊は喇叭(らっぱ)隊とともに社前に粛然と整列した。
 短い訓示のあと、号令一下、全部隊が敬礼した。喇叭隊の吹奏する「国の鎮め」の響きが境内に荘重に流れ、その音が本殿の奥深く鎮まります英霊のみもとに吸い込まれてゆくような感動であった」と述懐している。宮司らは感激して客間に招じ饗応 (きょうおう)している。


97号 19. 1.23 「国防意識雑感」 日吉 章  (全国防衛協会連合会理事長)

                          国 防 意 識 雑 感

                              

我が国を取り巻く国際情勢は大きく変化を続けています。昨年、北朝鮮は再びミサイルを発射し、更に核実験を実施したと発表しました。

中国は、驚異的な経済成長を背景に、軍事力の増強、近代化を推し進め、それに伴い、我が国周辺での艦艇、航空機の活動が活発となり、東シナ海では日中中間線の東側に連なる石油・ガス田の操業を開始されたのでは内科と思われます。

ロシアは、原油価格の高騰に支えられて、再び「強い国家」を目指し、我が国の北方領土への態度を効果させ、その周辺海域で我が国の漁船員を射殺するという事件が起こりました。

このような情勢に直面して、わが国民の間にも漸く戦後久しく忘れ去られてしまったのではないかと危惧されていた国防意識が蘇ってきたように思えます。しかしながら、核やミサイルに対する危機意識は依然として低く、他方、強硬措置を求める「勇ましい」主張も見られ、ある種の「危うさ」を感じなくもありません。

核やミサイルに対する危機意識の欠如は論外として、勇ましい意見や強硬な措置にも、これによって相手の意図を挫き行動を阻止する効果が期待できる反面、逆に相手の厳しい反撃を誘発するおそれがあります。問題は、そのとき怯むことなく敢然と立ち向う覚悟ができているのか、対処し得る能力、体制が整っているのかということです。

たとえ独力で対処する能力がないとしても、他国の協力が得られる手筈が整えられており、その場合にも当然のことながら他国任せではなく共同して戦い、少なくともその支援を行い得る体制が整えられていなければなりません。

また、現在の国際社会においては、国際世論の理解を得ることも極めて重要なことです。

私は決して強硬な措置に消極的なのではではなく、例えば拉致問題や石油・ガス田問題などでも、初期の段階でもっとこれらの問題に真剣に取り組み毅然とした対応をしていれば、被害者の増加を防ぎ、また問題の解決をこれほど複雑、困難なものにしなかったのではないかと考えています。要はその措置に伴うリスクの覚悟とその極小化のための対策が十分に講じられているかということです。

約百年前、日露戦争に際しわれわれの先人がとった内政外政の両面に亘る「周到にしてしたたかな」対応を今改めて思い起こし、これに学ぶべきだと思うのです。

これこそ正に政治、為政者の責務であり、国民一般に負わせるべきものではありません。しかし、民主主義国家では、政治は国民の世論に影響され、それを無視するわけにはいきません。

今後われわれ防衛協会も、オピニオン・リーダーとして、単に防衛意識の普及高揚を図るだけでなく、より深い洞察力を以ってその役割を果たしていかなければならないのではないかと考えます。

96号 18.10.23

日本を破滅させる“謀略”の正体

渡辺 眞  (東京防衛協会監事)
                  日本を破滅させる“謀略”の正体

                              

 かつて我が国は東亜の各地と太平洋の各地で壮絶な戦いを行い敗れた。その相手国であり、戦いの挑発をしたアメリカを背後で操ったコミンテルンの世界的謀略の正体は、当時の国民にはわからなかった。最近、その多くが明らかになってきた。満州で北方の脅威・ソ連に対抗していたはずの我が軍は、なぜ南下してシナと戦うことになったのか、さらに仏印に進駐し、アメリカと戦うことになったのか。その謎が明らかになって来た。その謀略の広がりと深さは想像をはるかに越えるものである。

 戦後の我が国は、日本国弱体化を企図した占領憲法を推し戴き、唯物的・経済至上主義を有り難がり、ひたすら物心両面の秩序破壊に勤しんできたことも自覚できず、独立国家国民としての誇りを失い、民族固有の魂をも放擲した結果、政治・経済・社会の様々な面で、今や由々しき根本問題が露呈されてきている。また社会秩序解体思想と人権迎合思想が性道徳の乱れ、母性・父性の崩壊を、ひいては家庭、学校、社会の崩壊を引き起こしている。

それに加えて、最近ではジェンダーフリーや、過激で露骨な性教育などを煽る異常なイデオロギーが学校や地方自治体に入り込み、文化や道徳を破壊する洗脳行政、洗脳教育を施している。また、母親の家庭からの駆逐と、それに伴う「子育て外注化」による親子間の愛情の欠如、犯罪の低年齢化、低出生率による少子化などは互いに影響しあって、「まともな子供が生まれない、育たない」という日本民族そのものの生命存続に関わる危機的状況に至った。

                               『内部崩壊の危機』

この異常なイデオロギーを操るのが、共産主義から派生したクローン(変異体)である。国連と政府を占拠し、地方分権の風潮に乗り、あらゆる地方自治体と教育を手中におさめつつある。このクローンの戦果を一人占めさせまいと反日カルト、反日人権団体、反日民族団体も動き出して来た。共産主義クローンとこれら反日団体は、時にはフェミニズムとなり男らしさ女らしさの文化伝統を破壊し、母親を家庭から駆逐し、時には反日サヨクとなり「日本の歴史は暗黒だった」という偏向自虐教科書を広げ、時には性教師となり変態性教育を推進し、時には「人権屋」となって、子供権利条例を広げて子供の人格、家庭、学校、社会の秩序を破壊し、時には「市民参画」のサヨク市民となって、国家から地方自治体を分離させるため、実質的な外国人地方参政権付与条例の自治基本条例を推進している。無防備地域条例制定の直接請求の動きもある。最近はこのような亡国条例が目白押しなのだ。

                              『国旗国家に尊敬の念を』

実はこの謀略と戦っているのは全国の地方議員である。地方自治体の非常識で異常な政策を正し、反日団体による税金の簒奪をチェックし、「市民参画」のインチキを暴き、亡国条例案の数々を常識の力で否決し、偏向教育や自虐史観教科書を正し、組合支配の学校現場に鋭いメスを入れて学校長の戦いを支援し、式典で国旗国歌を正しく扱わせ、男女混合名簿などの男女無区別教育を正し、危険な「子供権利」条例と戦っているのである。

さらに、彼ら反日謀略団体の手に、恐るべき日本人抹殺の武器が渡されようとしている。それが人権擁護法である。我が国民の思想、言論の自由を封殺し、従わない者を尋問、糾弾、リンチ、粛清する特権を人権委員会に与えるものである。恐怖の人権人民共和国の出現を絶対許してはならない。

今日の日本に襲いかかる謀略の正体を正確に見抜き、この戦いに勝利しなければ、我が国は内部から崩壊していってしまう。日本の危機は内外共に深刻である。我々はこの深刻さを正確に認識し、反撃の戦略を構築し、敵の理論、思想を常識の力で打ち破り、愛国心と国防精神と防衛力を高め、誇りある我が国を支えていくことが必要である。(日野市議会議員)

95号 18. 7.23 再びイラク派遣に思う 小柳 毫向  (全国防衛協会連合会常任理事)

                         再びイラク派遣に思う


 5月下旬に陸上自衛隊の第10次派遣隊がイラクに向け出発した。これで5個方面隊全て一巡し、約2年半に及ぶ活動の中で250回を越える医療支援、約9万トンの給水(172月以降はODAによる器材により浄水)、百ヶ所以上の公共施設の復旧整備を行い、これらの活動を通じ延べ約47万人のイラク人を雇用し、イラク復興支援の尖兵としての役割を終えつつある。

今回のイラク派遣は、PKOと比較して見ると良くその特徴が理解できる。PKOの場合は国連が全ての主導権を握る。派遣国、活動開始時期、編成の概要等、参加を希望する国は国連と調整の上で派遣する部隊の種別・規模がきめられ、現地では事務総長の指名する者の指揮(日本では指図という)を受け、燃料・食料等お補給や部隊派遣の輸送手段も基本的には国連がアレンジしてくれる。当然、任務終了に伴う撤収も国連が支持する。これに比し、今回のイラク派遣は全て自分で決め、それ故全てを自前で面倒見なければならないという特徴を有し、PKOと根本的に枠組みをことにする。

このような特徴に照らし手考えると、特に政治レベルで政治レベルで配慮を要すると思われる点が幾つか指摘できる。

1 基本戦略の確立と撤収条件の作為

           今回の派遣は対米配慮からなされた観が強い。日米同盟の絆を強化することは我が国の安全保障のためにも極めて重要なことであり、派遣に異を唱えるものではない。しかし、派遣を自ら決めたい上、我が国の国益に照らし、イラクにどのように関与していくのかという基本戦略を確立する必要がある。基本戦略が確立されてはじめて、イラクの復興支援をどのようにやっていくのか、その中で、自衛隊に何を期待し、またどこまで期待するのか、さらには、自衛隊撤収後、どの様な形でイラク復興に係わるかが明らかになる。

今回の派遣は、押っ取り刀で派遣した観が否めない。当初派遣された隊員は、自らの派遣の意義を考えて、自らを納得させ家族を説得したといわれるが、これは政治の重要な役目である。

また、兵を用いる場合は、いかに兵を収めるかということを、当初から考えておく必要がある。これは戦争指導で特に重要であるが、国内の災害派遣においても、いかに撤収するかは派遣部隊指揮官の最大の関心事であり、判断事項である。撤収の気が熟するのを待つという考えよりも、撤収の条件を自ら創り上げることこそ政治の腕の見せ所である。軍に明確な目標を与え、終末を適切に指導することは、シビリアンコントロールの基本である。

2 柔軟な編成

 派遣部隊の編成は、閣議決定される実施計画の中で枠組みが決められ、特に派遣隊員の上限数が変更されることはまずなく、極めて硬直したものとなる。今回の派遣に当たっては、従来のPKO等と同じく、自ら汗してイラクのために働くことを前提とした編成がなされたが、医療、給水は別にしても、公共施設の復旧は、いかにイラク人に雇用の機会を与えるかが、復興支援のため重要であるかが、現地に行って分った。

このため、施工管理等の技術者が必要となったが、派遣隊員数の制約等から、派遣部隊の要望に迅速に答えることができなかったといわれる。また、このような業務は本来、武力集団である自衛隊の任務に相応しいものではない。

活動内容によって、自衛隊とJICA等の民との混成の編成ができるようにするか、あるいは明確な目標を与えたならば、細部の編成は自衛隊に任せる等、柔軟性を持たせる必要があろう。このためには、政治家の頭の柔軟性と、シビリアンコントロールについての正しい理解が必要となる。

3 兵站の確保

兵站は部隊運用の基盤であり、あらゆる作戦・活動を成功に導くためには、兵站を確保することが必要の要件となる。食料・燃料等は現地調達ができるが、部隊交代等のための輸送手段は自前で準備しなければならない。

我が国は専守防衛を国是としているため、海・空自衛隊の輸送能力は皆無に等しく、民に依存せざるを得ないが、我が国の航空会社は、自衛隊の国際協力活動に極めて非協力的である。本邦からイラクへの移動は勿論のこと、イラク派遣に伴う部隊の国内移動にも一切協力しないという。たまたま政府専用機を利用した時、某航空会社からタラップを借用したが、その会社は、タラップに描いてある自社のロゴマークをわざわざ消して貸し出したそうである。こうなると非協力的どころか冷淡と言わざるを得ない。

国際協力活動が自衛隊の主任務に位置付けられるそうだが、このためには、海・空自衛隊の長距離輸送能力の整備、あるいは民の協力態勢を整える等、兵站線の確保に配慮することが前提となる。任務を与える必要があるならば、任務を遂行しうる可能性(能力)を与えることが政治の責任であることを銘記する必要がある。

94号 18.4.23 中国とどう付き合うか 山本 誠  (全国防衛協会連合会常任理事)

                          中国とどう付き合うか

このところ、日本のとるべき外交姿勢について、世論が大きく二つに分かれている。その一つは「対米一辺倒ではなく、アジアをもっと重視すべきであり、靖国問題など少々譲歩しても中国との関係を改善すべきだ」とする意見。もう一つは「飽くまでも日米関係を主軸として、中国に対して是々非々で毅然とした態度で臨むべきだ」とする意見である。

私はどちらかといえば、後者の立場をとる。それは何故か。わが国の行く末を論ずるに際し、まず考えるべき事は、この厳しい世界情勢の中で、我が国はどのような位置付けにあるかということである。

日本は地勢学的に観て紛れもない海洋国家であり、海洋を紐帯として結ばれる海洋国家群の一員である。その中で生存と繁栄を維持するためには食料 (カロリーベース)の60%、エネルギー資源の95%、各種鉱石やレアメタルは100%を海外に依存せざるを得ない貿易立国であり、その流通の安全を確保することが立国の条件となる。

このため、不安定の弧と言われる中東からのルートやアジア太平洋海域を含むシーレーンの安全と、自由貿易秩序を維持するための地域の安定を確保することが、日本にとっては死活的に重要である。

こういった観点から当面、好むと好まざるとに関わらず、この地域・海域に強大な影響力を有するスーパーパワーである米国を中核とする、自由民主主義海洋国家群の一員として、日米同盟を堅持し、他の自由圏諸国との連携を強化していくことが、平和と独立と繁栄を維持するために日本が採り得る最善の選択肢であり、中国との関係は日本にとって勿論重要ではあるが、日本の死活に関わるような関係にはないと考えるからである。

日本は、聖徳太子(574〜622)が隋に対して「日出る処の天子、書を日没する処の天子に致す、恙無きや」と国書を送り、中国と全く対等な立場を築いて以来、明治維新まで約13百年間、中国文化は積極的に受け入れながらも、一定の距離を置いた関係を保ってきた。

しかし日露戦争以降、列国の植民地政策に追随して大陸に深入りし、対米戦争に至った経験は大いに反省し、教訓とすべきである。

近年の中国経済の発展は確かに目覚しいものがある。しかし反面、共産党一党独裁の政治体制と、西側化が進む資本主義的経済体制とは本来、相容れないものであり、言わば股裂き状態にあると言える。

こういった中、中国が抱える貧富格差の深刻さについて、2月11日の産経新聞は次の様に伝えている。

▼ 都市部と農村地帯との経済格差は拡大の一途をたどり、経済格差を示すジニ係数は0.450.53「国連人類発展報告」にまで拡大している。 (一般にジニ係数は0.4を超えると社会不安を引き起こす可能性があり、0.5を超えると暴動の危険性を孕むとされる。因みに2005年OECDの公表によれば日本は0.31、米国は0.36

▼ 英国エコノミスト編集長で『日はまた昇る』の著者ビル・エモット氏は、中国経済はなお暫らく高い成長率が続くとして、「問題は、近い将来に中国内部で政治的衝突が起こるだろうということ。

▼ 民主化という戦いが本格的に始まれば、中国の不安定化は避けられない」と指摘している。現に不満分子による抗議行動は年々増え続け、一昨年は7万4千件、昨年は8万7千件に達したという。

中国社会は見掛けの繁栄とは裏腹に、体制崩壊への大きな危険性を孕んでいることを見逃してはならない。中国の歴史は、都市部の点と線の繁栄の果てに地方との格差が拡大し、周辺の新興勢力に取って代わられるというパターンの繰り返しである。人口13億人のうち僅か7千万人の共産党員によって支配される一党独裁の現政権も、この儘でいけばどうなるか。中国との良好な関係を維持することは、勿論重要ではあるが、いざという時に備えて被害を極限出来る様、適切な距離を置いて付き合うことが肝要である。

一方、日本にとってアジア諸国との関係は確かに重要である。米国の大学などがBBC(英放送協会)の依頼で行なった世論調査によれば、アジア33ヵ国のうち31ヵ国で、日本の影響力について肯定的評価が否定的評価を上回ったという。否定的評価が上回った残りの2ヵ国が中国と韓国であることは言わずもがなか。H18.2.6産経抄)』

この結果を観れば、中国と韓国は寧ろアジアの少数派ではないか。アジア諸国の中には中国の覇権主義に脅威を感じている国も多いのではないか。こういった中、日本がアジア自由圏諸国の一員として日米同盟を強固に維持し、是々非々を以って毅然として中国の覇権主義に対処することは、極めて意義のあることである。

最後に、益々複雑化する国際社会において、無資源国日本が平和と独立と繁栄を確保するためには、どの国と組むかということが最重要事項となることを改めて強調しておきたい。