安 全 保 障 講 座
防衛大学校教授による現代の安全保障講座
国際人の教養としての軍事学/日本の安全保障と軍事科学を学ぶ

                            講座開設にあたって     

世界の情勢は、世界各地で紛争の要因を抱えており、イラク、アフガニスタンに於ける政情不安、イラン・北朝鮮の核開発、進展しないパレスチナ問題、中東・北アフリカに於ける民衆による反政府抗議デモ等、そしてヨーロッパ及び米国での金融危機をも重なり誠に不安定・不透明な状況にあります。

 わが国周辺においても、核・ミサイル開発を進める北朝鮮、軍事力増強を進める中国、ロシア、加えて韓国やロシアとの領土問題等もあり、安全保障環境は依然として厳しい状況にあります。

 このような情勢の下で、わが国は日米安全保障体制を堅持して、その信頼性の維持向上に努めるとともに、自ら適切な規模の防衛力を整備して、わが国の平和と繁栄を図り、世界の平和と安定の維持に寄与していかなければなりません。

 わが国の平和と繁栄は、国の独立と安全なくしてはあり得ません。それには国民ひとりひとりが、自分の国は自分で守るという強い気概を持つことは勿論のこと、わが国の防衛についての正しい認識と、適切な判断力を持つことが必要です。

 当連合会は、「防衛意識の高揚」と「自衛隊に対する支援・協力」を目的としていますが、その事業の一環として、平成6年度以来、広く国民に認識を深めて頂く一助とするため、防衛大学校の権威ある諸先生方にお願いし安全保障や防衛の基本的問題について、本講座を開催してまいりました。

 何とぞこの趣旨をご理解下さいまして、皆様方多数のご参加をお願いする次第であります。

平成2310月吉日

                      全国防衛協会連合会     会 長  佃 和夫

第18回現代の安全保障講座 (平成23年11月28日)
統一テーマ 中東について


 全国防衛協会連合会は
1128日、防衛省の後援並びに防衛大学校同窓会及び()防衛大学校学術・技術振興会の協賛を得て、グランドヒル市ヶ谷において「防衛大学校教授による第18回安全保障講座」を開催した。

 これは「国際人の教養としての軍事学、日本の安全保障と軍事科学を学ぶ」として毎年開催されているもので、今回は中東に焦点をあてた講座で、防衛協会員のほか現職自衛官ら120名が参加した。

 講義に先立ち、高嶋防衛大学校副校長から防衛大学校の概要についての説明があった。

 講義は折から「アラブの春」と呼ばれる大きな政治変動の真っ只中、関心が高く講義終了後も幅広い層から質問が相次いだ。


 
江間防衛協会理事長挨拶                           高嶋防大副校長挨拶

 
高嶋防大副校長の現況説明

 
講演風景

 
講演風景

- テーマ、講師略歴、講演要旨 -

テ ー マ 戦闘車両の世紀
サブテーマ —技術動向と地上ロボットの真価—
講   師 教授 渡邉 啓二(システム工学群機械工学科)
略  歴

1975年 防衛大学校機械工学科卒業
1980年 防衛大学校理工学研究科卒業
1982年 防衛大学校助手
1986年 工学博士
1986年 カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員
1997年 防衛大学校教授
2007年 同機械工学科長
2009年 同理工学研究科教務主事

要   旨

1916年、ソンムの会戦に初めて戦車が登場して以来、約100年、湾岸戦争における米国M1戦車の活躍など、その技術的発展は目をみはるものがある。
 しかし、第四次中東戦争では小型軽量の対戦車ミサイルの威力が強調され、一時は戦車不要論が出る等その歴史は決して平坦なものではなかった。
 また、湾岸戦争を契機として軍事革命の研究が盛んになり、こうした中で、民間人はもとより兵士の命を失うリスクを避けるための地上ロボットや無人機の有用性が注目されるようになってきた。
本講座では、戦車の出現から100年の歴史、ならびに近代の戦闘車両の性能や技術動向を概説するとともに、軍用・民用の陸上無人機(UGV)の現状とその動向について紹介する。


                                 講演の概要

                戦闘車両の世紀  技術動向と地上ロボットの真価

 世界の装軌式装甲戦闘車は、英国のリトル・ウィリーに始まり、ビック・ウィリーは、1916年ソンムの戦いに初めて投入された。仏国は歩兵に随伴するルノーFT軽戦車を生産した。独国は数々の優れた戦車を開発し、レオパルドⅠは、NATOの共通戦車のようになった。米国はM1戦車を開発した。

 日本は1号戦車を開発した。戦後は61式戦車、74式戦車、90式戦車と世界のトップレベルの戦車技術を実用化し、冷戦終結後は軽量・コンパクト・低コストの10式戦車を開発した。

 近年は戦車などではなく、耐待ち伏せ地雷防護、錯雑地での路外機動性、遠隔操縦によるロボットなどの装備品が注目される。

 福島第一原発事故では、米国製の地上ロボット2台が原子炉建屋の内部調査に投入された。これはアフガンで洞窟内の偵察、イラクで路肩の爆弾処理爆弾処理などに使われた実戦経験のあるロボットである。

 その後国内建機メーカによる無人化施工技術を活用した瓦礫除去が行われたが、雲仙普賢岳以来、開発と研究に取り組んできたメーカの技術の真価が問われる機会となった。

 車両の開発時に米国では、信頼性,生産性,補給整備性,耐久性という表現がとられ、欧米では基本的な構成機器、例えば、履帯駆動部とトランスミッションは車両の全形式を共通にした多目的設計の戦闘車両も開発されている。

 我が国の防衛研究開発費は、米国とは比較にならず、英仏などの先進国の半分以下であるが、自衛隊が優れた装備品を保有するためには、研究開発を継続する地道な努力が必要である。

                                   レジメ
1 はじめに

  1770年、Richard Lovell Edgeworthが英国において、”Portable Reilway”または”Artificial road”として特許を取ったのが、履帯の始まりであり、板をチェーンで繋いだ簡単な機構であった。これは無限に続く軌道となるので、無限軌道と呼ばれていたが、現在では装軌車(Tracked Vehicle)あるいはクローラ車(Crawler)と呼んでいる。

 1916年、ソンムの会戦に初めて戦車が登場して以来、約100年、湾岸戦争における米国M1戦車の活躍など、その技術的発展は目を見張るものがある。しかし、第4次中東戦争では小型軽量の対戦車ミサイルの威力が強調され、一時は戦車不要論が出る等その歴史は決して平坦なものではなかった。

 また、湾岸戦争を契機として軍事革命の研究が盛んになり、こうした中で、民間人はもとより兵士の命を失うリスクを避けるため地上ロボットや無人機の有用性が注目されるようになってきた。

 本講座では、戦車の出現から100年間の歴史、並びに近代の戦闘車両の性能や技術動向を概説するとともに、軍用・民用無人機(LGV)の現状とその動向について紹介する。

2 戦車の世紀

 世界初の装軌式武装戦闘車(戦車)は、1915年9月、英国のチャーチル海軍大臣の主導のもとにリトル・ウィリー(Little Willie)から始まり、翌年の1916年には改良型の2次モデルであるビック・ウィリーあるいはマザーと呼ばれた戦車の試作車が完成した。このビック・ウィリーはその後、1916年9月のソンムの戦いに初めて投入された。フランスは歩兵に随伴する事を第一義としたルノーFT軽戦車を5000両生産し、各国のお手本となった。

 ドイツは第2次大戦中、数々の優れた戦車を開発した。戦後、1950年代に独仏伊共同戦車開発を計画したが失敗、独自のレオパルドⅠを制作した。レオパルドⅠは、10カ国以上の国が使用し、NATOの共通戦車のような存在となった。レオパルドⅡ(1979年装備化)も、多くの国で使用されている。

 米国は、1970年代に使用する主力戦車を1963年に西ドイツと共同開発に着手した。米国は152mmガンランチャーを搭載し、姿勢制御できる懸架装置を主張、一方、西ドイツは高価で精巧すぎるため高初速砲搭載を希望し、最終的に折り合わず、MTB70計画は途中で失敗し、1970年共同開発を中止した。

 米国はM1戦車を、西ドイツはレオパルドⅡを別々に開発した。M1戦車は1500馬力のガスタービンエンジンを搭載し、主砲は105mmであったが、1988年より主砲を120mm滑空砲へ換装し、劣化ウラン装甲、射撃統制装置の改良を行ったM1A1にモデルチャンジ下。

3 日本の戦車開発史

 1918年、英国よりマークⅤ、マークA戦車、フツコクよりルノー戦車を導入し、第2次大戦前、原乙未生中将は1号戦車(1929年)を開発した。これが日本の戦車開発史の始まりであり、リトル・ウィリー(1915年9月)に遅れること僅か12年であった。

 陸上自衛隊の61式戦車は戦後初の国産戦車で、1953年から開発が始まり、1961年に制式化された。旧軍以来の空冷ディーゼルエンジンを採用し、レーザ測距装置と国産90mm級の大口径長砲身を装備した。74式戦車は61式戦車の後継で、低いシルエットに105mm砲を搭載し、射撃統制装置はレーザ測距装置と弾道計算の組合せである。特に油気圧式懸架装置で姿勢制御が可能となり、日本独自開発の技術を採用した車両で、1974年に制式化された。

 74式戦車に続く第3世代の主力戦車として、10年間の開発期間をかけて1990年に90式戦車が制式化された。120mm滑空砲はドイツ製であるが、その他は国産のハイテク技術を結集したものである。特に、走行中でも目標を自動追尾射撃可能な砲安定装置などが優れた性能を有し、ほぼ世界のトップレベルの戦車技術を実用化してきた。そして、1991年ソ連崩壊・冷戦終結、軽量・コンパクト・低コストを目指して開発されたのが2010年に制式化された10式戦車である。

4 戦闘車の新規開発動向

 2010年、10月ワシントンにおいて実施されたAUSA(Association of the United States Army)主催による装備品展示会で特に注目された装備品は以下の三つに大別される。

 その一つは、MRAP車両で戦車などのような武装車両ではなくなっている。耐待ち伏せ地雷防護であり、車両はIED(即製爆弾)の爆発(破片)に耐えられるように下部がV字型の装甲板で強化され、座席は爆発(衝撃)から乗員を防護するため、専用の座席が装備されている。

 二つ目は、車両の路外機動性の向上を考慮した車両の開発である。開発の理由はアフガニスタンにおける戦いは、イラク(砂漠の平地)と異なり錯雑した山地であることから、車両は錯雑地での路外機動性が求められる。

 三つ目は、遠隔操縦による無人装備品(ロボット)であり、死傷者を極限させる必要があるため、地上ロボットの研究開発が盛んになっている。

5 地上ロボットの真価

 東日本大震災における福島第一原発事故では、アメリカ”iRobot”社提供の「Pacbot」2台が、4月17日に先陣を切って、原子力建屋の内部調査に投入された。この地上ロボットは米軍が実践にも投入、アフガニスタンでは洞窟内の偵察、イラクでは路肩の爆弾処理など戦場での作戦に使われた実戦経験のあるロボットであり、放射性物質や化学物質などの異常を検知することが可能である。今回の探査では2台を同時に投入し、建屋の瓦礫を避けながらドアの開放を協力しながら行ったものと推察される。

 震災から1か月が経過した4月11日には、無人化施工技術を活用した建設機械によるコンクリート瓦礫除去が行われた。ブルトーザや油圧ショベルなどの建設機械を用いた国内建機メーカーによる無人化施工技術を活用した瓦礫撤去は、長崎県の雲仙普賢岳の噴火による被災地の復興で遠隔操作型の建機を稼働させて以来、各社とともに20年以上にわたって開発と研究に取り組んできた。

 原子力建屋周辺は放射線量が高く、構内の瓦礫も放射能で汚染されており、操縦者の安全が確保できないため、建機にカメラを設置し、遠隔地の操縦室から無線による遠隔操作で構内の瓦礫を撤去することとなった。

 まさに、国内の建機メーカの無人施工技術の真価が問われる機会となった。

6 まとめ

 自衛隊の装備品はハイテク技術を集約したものであり、これらを搭載する車両は目的や用途に応じて車両の形態も装輪車、装軌車など小型のものから重車両までさまざまである。

 車両の開発時に米国では、RAM-D(信頼性、生産性、補給整備性、耐久性)という表現がとられてきた。

 欧米では、基本的な構成機器、例えば、履帯駆動部とトランスミッションは車両の全形式を共通にした多目的設計の戦闘車両も開発されている。

 わが国の防衛研究開発費は、米国とは比較にならない。イギリスやフランスなどのの先進国の半分以下であるが、自衛隊が優れた装備品を保有するためには、研究開発を継続する地道な努力が必要である。
 
テ ー マ 中東地域の食の特質を考える
サブテーマ - 古代メソポタミア期と中世イスラーム期に書かれた料理書を中心に -
講   師 准教授 尾崎 貴久子(総合教育学群外国語教育室)
略  歴 1991年 東京外国語大学外国語学部アラビア語学科卒業
1993年 慶應義塾大学大学院文学研究科東洋史専攻修士課程修了
1996年 東京外国語大学大学院地域文化研究家博士後期課程修了(学術博士)
1996年 日本学術振興会特別研究員
2001年 防衛大学校講師
20
11年 防衛大学校准教授
要   旨

中東地域では、古代と中世の時代に、2冊の料理書が編纂されました。いまから3500年前の古代メソポタミアと、9世紀イラクのバグダードでのことです。
 ひとつは、古代メソポタミアのシュメール人による、神々あるいは最も高貴な人々のための料理のレシピ集であり、もう一つは、8世紀にバグダードを首都とし、経済的・文化的な繁栄を中東にもたらしたアッバース朝の宮廷料理の書です。これらは、この地の当時の食と飲の実際の利用を我々に見せてくれる唯一の資料です。
 今回の発表では、これらの料理書の内容と、同時代に書かれた様々な文献資料の食に関わる記述から、古代から現在まで変わらない、中東の食べ物の特質を検討したいと思います。
 さらには、宗教イスラームや、イスラーム王朝下の中東地域の社会・経済・文化活動が、この地に生きる人々の飲食への見方や考え方におよぼした影響を検討します。


                                 講義の概要

                          中東地域の食の特質を考える 
               
古代メソポタミア期と中世イスラーム期に書かれた料理書を中心に

  中東地域では、古代と中世の時代に、2冊の料理書が編纂されました。3500年前の古代メソポタミアと、9世紀イラクのバグダードでのことです。ひとつは、古代メソポタミアのシュメール人による、神々あるいは最も高貴な人々のための料理のレシピ集であり、もう一つは、8世紀にバグダードを首都とし、経済的・文化的な繁栄を中東にもたらしたアッバース朝の宮廷料理の書です。これらは、この地の当時の食と飲の実際の利用を我々に見せてくれる唯一の資料です。

  これらの料理書の内容と、同時代に書かれた様々な文献資料の食に関わる記述から、中東の食べ物の特質は古代から現在まで変わらないと考えられます。

 現代中東地域での「食」の原型は、中世イスラム期に成立しました。

 いかにして食べるのかを宗教イスラームの第一の経典クルアーンの記述からみると、禁忌であり、5行の一つとしての断食であり、食べることと施すことです。

 第二の経典ハディースからは癒すものとしての食べ物の記述が伺えます。

 美味しいものはなにかを古代と中世の料理書からみると、中東地域のごちそうとは古代と中世の共通点は料理法で、相違点は食材と目的に見られます。

 中東の「食」の体系をつくりあげたものは8世紀からの商業と農業の変化であり、「体に良い」ものは何かとの考え方が古代ギリシャ医学を継承したイスラーム医学繋がっています。

                                            レジメ
1 はじめに
 ○ 日本と違うイスラーム世界の人々との食事
 ○ 中東地域の歴史(共通言語の変遷から)
 ○料理書という書物
 今回の目的
   現在の中東地域の”食”の成り立ちを、歴史資料類からみる。
   -現代中東地域での”食”の原型は、中世イスラム期に成立した

2 いかにしてたべるか
 ○ 宗教イスラームの第一の経典クルアーンの記述から
  ・ 禁忌
  ・ 5行の一つとしての断食
  ・ 食べることと施すこと
 ○ 第二の経典ハディースの記述から
  ・ 癒す者としての食べ物

3 美味しいものはなにかー古代と中世の料理書から
 ○ 中東地域のごちそうとは
  ・ 古代と中世の共通点ー料理法
  ・ 相違点ー食材と目的

4 中東の”食”体系をつくりあげたもの
 ○ 8世紀からの商業と農業の変化
  ”身体に良い”ものは何かー古代ギリシャ医学を継承したイスラーム医学

5 おわりに



資料1: 古代メソポタミア文明の料理書(紀元前1600年頃)の食材

 ● 添加食材は、36種類
 ●穀類グループ ー 穀粒、炒り麦、炒り麦粉
 ●うまみ風味を類 ー ねなし蔓、ミント、ウイキョウ、コリアンダー、ルッコラ、糸杉の球果、ヘンルーダ、木?
 ●調味料 ー ビール、乳、酢、塩、シック(魚甲殻類バッタの発酵調味料)、血

資料2:中世イスラーム世界の料理書(9世紀後半頃)の食材

 ●香料(麝香、竜涎香、バラ水、サフラン、シナモン、ガランカ、甘松、クローブ、マスチック、ナツメグ、黒のカルダモン、
      メース、緑のカルダモン)
 ●乾果(ナツメヤシの実、レーズン、アーモンド、クルミ、ヘーゼルナッツ、ビスタチオ、マツの実)
 ●新鮮な果物(甘ザクロ、酸ザクロ、酸リンゴ、ルバーブ、未熟ブドウ、黒プラム、バナナ、レパント産リンゴ、メロン、
          アプリコット)
 ●砂糖とハチミツ、赤砂糖、糖蜜
 ●発酵調味料(ムツリーとブン、オリーブの実、オリーブ発酵調味料)
 ●穀類と豆類(※、小麦粉、ヒヨコマメ、レンズマメ、ソラマメ、リョクトウ、ルピナス、ガラスビーン)
 ●ハーブと野菜(タマネギ、タマネギ汁、ニンニク汁、パセリ、クレソン、レパルト産リーキ、テーブルリーク、ラディッシュ、
           フダンソウ、セロリ、コリアンダーの生薬、ヘンルーダ、ミント、辛いリーキ、カボチャ、ヤマホウレンソウ、
           アスパラガス、シトロンの葉、ディル、スベリヒユ、ナス、ニンジン、カブ、キャベツ、ホウレンソウ、オオグルマ、
           小さなスベリヒユ、カリフラワー花球)
 ●スパイス類(コショウ、コリアンダーシード、クミン、キャラウェイ、ショウガ、長コショウ、ラヴィジ、アサフォエティダの根、
          アサフォエディダの葉、塩、油、未熟ブドウ汁)
 ●乳製品(ホエー、乾燥バターミルク、生乳、バター、ヨーグルトチーズ、リコッタチーズ、クロテッドクリーム)
 ●ワイン類(調理済ワイン、レーズンワイン、蜂蜜酒、日光乾燥ワイン、ブドウワイン)
 ●菓子用着色料(ラピスラズリ、サフラン、zunjufr, sayraqun, isfidhaj, インディゴ)

テ ー マ 中東で何が起きているのか
サブテーマ - アラブ諸国の政治変動とその背景 -
講   師 教授 立山 良司(人文社会科学群国際関係学科)
略  歴

1971年 早稲田大学政治経済学部政治学科卒業
1982年 在イスラエル日本大使館専門調査員
1987年 国連パレスチナ救済事業機関アンマン本部総務課長
1989年 財団法人中東経済研究所研究副主幹・研究主幹
1997年 防衛大学校教授

要   旨

アラブ諸国では20111月以降、「アラブの春」と呼ばれる大きな政治変動が起きている。チュニジア、エジプト、リビアでは新しい体制が作られようとしている。背景にあるのは独裁や基本的人権の抑圧、貧富の差の極端な拡大、若者を中心にした失業などだ。「アラブの春」で特長的なことは、若者たちがフェースブックなど新しいメディアを使って反体制運動を展開したことだ。
  この政治変動の結果、中東の情勢も大きく変わろうとしている。「アラブの春」がなぜ突然起きたのか、その背景は何か、さらにどのような変化を中東全体にもたらすかを探ってみたい。


                              講義の概要

                       中東で何が起きているのか
                        アラブ諸国の政治変動とその背景

 アラブ諸国では1月以降、「アラブの春」と呼ばれる大きな政治変動が起きている。チュニジア、エジプト、リビアでは新しい体制が作られようとしている。またシリアでも反政府デモにアサド政権は激しい弾圧を続けている。そのほかバハレーン、イエメン、サウジアラビア、ヨルダン、モロッコなどで体制転換や政治改革を求める動きが起きている。

 背景にあるのは独裁や基本的人権の抑圧、貧富の差の極端な拡大、若者を中心にした失業などである。特長的なことは、若者たちがフェースブックなど新しいメディアを使って反体制運動を展開した。

 この政治変動の結果、中東の情勢も大きく変わろうとしている。

 米国やEUも情勢に応じた対応を模索しているが、国際社会の足並みの乱れや、社会全体が民主化に慣れていない事やイスラム主義組織の動向など難しい移行期であり、アル・カイーダなど過激勢力は全体として弱体化の傾向にあるものの、民衆の支持現象やイエメン、ソマリアなどの破綻国家で活動の場を得る可能性もあり、多くの困難が伴うと考えられる。

 今後は、イランとの関係正常化の動きなどエジプトの新しい外交姿勢や、パレスチナの活発な動き、イスラエルの不安等々中東全体の情勢に影響を及ぼしていくと考えられる。

 中東において、パレスチナ問題を巡り米国の孤立化をもたらし、単独行動主義の終焉と多極化の傾向はさらに強まると考えられる。

                                      レジメ

1 「アラブの春」 
 ○ チュニジア(ジャスミン革命)
  *2010年12月、青年が抗議の自殺
  *一気に反ベンアリ運動に
  *2011年1月14日、ベンアリ大統領、サウジへ亡命
 ○エジプト(1月25日革命)
  *タハリール広場(カイロ)で連日の集会デモ
  *全国主要都市に拡大
  *2月11日、ムバラク大統領が退陣
  *軍最高評議会が実権掌握
 ○リビア
  *2月頃から内戦状態
  *3月、国連安保理決議に基づきNATOなどが軍事介入開始
  *8月末にカダフィ体制崩壊、暫定国民評議会が実権掌握
  *10月20日、カダフィ大佐死亡確認
 ○シリア
  *3月から激しい反政府デモ
  *バッシャール・アサド政権は弾圧を続ける。3500人以上死亡(国連推定)
 ○そのほか:バハレーン、イエメン、サウジアラビア、ヨルダン、モロッコなどで体制転換や政治改革を求める動き

2 現状はまだら模様
 ○体制移行過程へ
   ・チュニジア:10月に制憲議会選挙(もともとは7月野予定)
   ・エジプト:11月末から国民会議選挙。その後に新憲法制定、新体制樹立へ(もともとは9月に国民議会選挙、11月までに大統領選挙実施予定)
   ・リビア:体制移行プロセスへ(暫定政権樹立、政権議会選挙など)
 ○一定の改革やばらまき策=ヨルダン、サウジアラビア、オマーン、モロッコ
 ○国家による徹底的抑え込み=バハレ-ン
 ○デモと暴力の拡大=シリア、イエメン

3 共通の背景
 ○失業(特に若年層の)、富の偏在、為政者・その家族の腐敗、汚職、不公正感
 ○基本的人権の侵害、政治参加の否定
 ○閉塞感:「世襲共和制」(シリア、エジプト、リビアなど)
 ○警察国家:秘密警察の「恐怖」による支配
 ○ばら撒き政治の失敗:石油収入の分配の失敗

4 新しいアクター:若者の運動
 ○若者たちがデモや抗議行動呼びかけ(既成政党やイスラーム主義組織とは別)
 ○インターネット、特にスマートフォンの普及(若者間で):新しい大衆動員のツールであり、討論の「場(space)
 ○ニューメディア:フェースブック、ツイッターなど
 ○市民ジャーラリズム(YouTubeなど):「恐怖」がなくなると
 ○衛星テレビ(特にアル・ジャジーラ)の役割

 ◎これら若者の運動は突然出てきたものではない
  ・エジプト:イラク戦争反対運動、更にムバラーク大統領後継者問題をめぐる「キファーヤ(もうたくさんだ)」運動、労働運動が続いていた。
  ・国際的な非暴力反体制運動とのつながり(セルビアの反ミロシェビッチ体制運動


5 オバマ政権の3つの対応
 *即時体制移行を要求:チュニジア、エジプト
 *改革要求しながらも即時体制移行求めず:バハレーン、イエメン
 *軍事介入:リビア
 *ではシリアでは?
   在米資産凍結、アサド大統領の入国・通過禁止などの制裁。EUも
   しかし、国際社会の足並みの乱れ(安保理議長声明は出たが)
   欧米にも軍事介入の意思なし(ロシア、中国は強く反対)

 ◎軍事介入に関するアバマの原則(3月28日国防大学演説)
  ・ 虐殺防止は米国の国益であり、そのための軍事介入あり得る。
  ・軍事介入はあくまで単独では行わず、国連の授権と国際協調が前提
  ・軍事力による体制転換は市内。

6 国家の性格と民衆運動
 ①エジプト、チュニジア型
  ・国家としてのまとまりがある。
  ・国民の一体性が強い
  ・軍が為政者の私的な道具ではない。
 ②シリア、イエメン、リビア型
  ・国家としてのまとまりが弱い
  ・民族や宗教・宗派、部族対立が強い
  ・軍が国民から乖離

7 シリアの動向
 ①アサド体制
  *アラウィー派(全人口の15%程度、イスラーム教の一派)中心の少数派体制
  *国民の多数はイスラーム教スンニ派、他にキリスト教各派など
  *ムスリム同胞団を徹底的に弾圧した歴史(1982年のハマ事件)
 ②シリアの地政学的重要性=アサド体制の特徴
  *イスラエルとの対立:ただし紛争を管理し、エスカレートさせない
  *イランと戦略的関係(イランにとってはアラブ諸国で唯一の同盟国)
  *ヒズボラ(レバノン)とハマス(パレスチナ)を支援
 ③アサド体制が崩壊した場合
  *多数派のスンニー派が権力掌握?ムスリム同胞団の発言力増大?
  *国内の混乱
  *レバノンへの混乱の波及
  *イランはアラブ世界での「橋頭堡」を失う、ヒズボラ派後ろ盾を失う。
  *ゴラン高原での国連PKO=UNDOF(国連兵力引き離し部隊)への影響?自衛隊も1996年から参加

8 移行期の今後
 ①難しい移行期間:多くの困難
  *新しい運動体/組織はどうなる:若者たちの経験不足
  *社会全体が民主化に慣れていない(政党政治の経験なし)
  *民衆の要求にどう応えるか:限られたパイ
  *軍の動向(民主化に応じるのか
 ②イスラーム主義組織の動向
  *エジプトのムスリム同胞団
  *チュニジアのナハダ(10月の選挙で約40%の議席獲得、世俗派との連立政権へ)
  *強さ:草の根的基盤、唯一の組織化された組織、地方はイスラーム的が強い
  *弱さ:イスラーム法導入などへの国民の危惧、政治改革で他の勢力が活動する余地が拡大
 ③アル・カーイダなど過激勢力
  *全体として弱体化(ビン・ラディンを含む指導者の殺害)
  *民衆の支持現象(イスラーム過激派を「恐怖」と見る民衆の増加)
  *ただし「破綻国家」で活動の場を得る可能性(イエメン、ソマリアなど)

9 中東の全体的な情勢への影響
 ①エジプトの新しい外交姿勢
  *反イスラエル的な国民感情に敏感(ただしイスラエルとの平和条約は維持)
  *シナイ半島の治安悪化(国内全体の治安が保たれるか)
  *イラン都の関係正常化の動き
 ②パレスチナ
  *若者の運動活発化
  *ファタハとハマスの暫定統一政権樹立合意(5月初め)
  *9月に国連加盟申請(米国の強い反対にも関わらず)
 ③イスラエルの不安
  *エジプトとの関係の冷却
  *パレスチナへの国際的な支持増大。
  *シリア野動向(後に)
 ④イランへのプラスとマイナス
  *エジプトとの関係改善の兆し
  *シリアの動向(後に)
  *イラン国民への影響
 ⑤イエメン情勢
  *アラビア半島のアル・カーイダ(AQAP)
  *ソマリアのイスラーム主義組織との関係(?)

10 米国と中東
 ①米国の孤立(特にパレスチナ問題をめぐり)
 ②単独行動主義の終焉(オバマの考え、能力的にも=リビアへの軍事介入)
 ③多極化(無極化)傾向のさらなる強まり

 

第17回現代の安全保障講座 (平成22年11月24日)
統一テーマ アメリカ情勢について

                      防大教授による「現代の安全保障講座」

 全国防衛協会連合会は平成221124日日午後、防衛省の後援、防衛大学校同窓会及び()防衛大学校学術・教育振興会の協賛を得て、グランドヒル市ヶ谷(東京都新宿区)において、防衛大学校教授による『第17回現代の安全保障講座』」を開催した。「国際人の教養としての軍事学、日本の安全保障と軍事科学を学ぶ」との副題の下、今回はアメリカに焦点を当てた講座で大学生等を含む百余名が聴講した。また講話に先立ち、防衛大学校の渡邉教育担当副校長から、教育課程の概要と現況、特に各国からの留学生及び米国の各士官学校との交換留学の状況について説明があった。

        日時:平成22年11月24() 午後1時から  場所:グランドヒル市ヶ谷(東京・新宿区)

      

                             講座内容と講師
① 「戦略物資シリコンカーバイト」       電気情報学群長               教授 守本  純

    ② 「オバマ政権の安全保障政策」       国際関係学科                教 授 石川  卓

    ③ 「オバマ政権の軍事戦略」          安全保障・危機管理教育センター    教 授 山口  昇

主催 : 全国防衛協会連合会  後援 : 防衛省 
協賛 : 防衛大学校同窓会 防衛大学校学術・教育振興会


 「戦略物資シリコンカーバイト」       電気情報学群長           教授 守本  純
略歴
1973年 埼玉大学理工学部卒
1973年 防衛大学校助手
1983年 東京工業大学工学博士
1985年 スタンフォード大学客員研究員
1993年 防衛大学校教授
2009年 防衛大学校 電気情報学群長 
守本教授講演内容

                             《概要》

戦略物質シリコンカーバイド

-21世紀のキーマテリアル


 電子立国日本を支えていたのは、シリコン(Si)、ガリウム砒素(GaAs)、ガリウム燐(GaP)等のウエハーの70〜95%を日本が生産していたからである。ところが次世代半導体のシリコンカーバイド(SiC)は殆どが米国に独占されている。

 シリコンカーバイドは耐食性、耐圧が高く、熱伝導率は金属銅を上回り、高温動作が可能であることから、パワーエレクトロニクスの鍵とされ、各種エネルギーシステム、電気自動車、さらには次世代MBTに不可欠な半導体である。あるいは、イージスシステムの高周波化、高出力化には窒化ガリウム(GaN)デバイスが注目されているが、実は結晶の成長基板はシリコンカーバイドであり、これは将来装備開発の鍵であるだけでなく、日本が電子立国であり続けられるか否かの正念場である。


                                  《レジメ》

1 はじめに

 日本が世界史に登場するのは20世紀になってからである。戦後、不死鳥のように甦った日本を支えたのは、糸偏、金偏、そして鉄鋼、造船、石油化学などであった。1960年代以降はエレクトロニクスの時代と言われ、現代の繁栄は「石器時代」とも言われる。もちろんシリコン(硅素:Si )である。Siを半導体として立ち上げたのは日本ではないが、今日では世界のSiウエハ生産の70を日本が占めている。もし、これが無ければ「電子立国日本」はあり得なかった。さらに、ハイテク半導体のガリウム砒素(GaAs)、ガリウム燐(GaP)、インジウム燐(InP)などのウエハ生産のシェアもそれぞれ、74%、97%、81と、日本は圧倒的に優位にある。

 ところが戦略物質である次世代半導体SiC単結晶は米国の1社が国防総省(DOD)や国防高等研究計画局(DARPA)の支援により世界市場をほぼ独占している。新々石器時代」の産業の米、戦略物質シリコンカーバイドを我が国のものに出来るか?防衛技術の問題だけではなく、日本の命運がかかった極めて重大な局面を迎えているのである。

 本講座は21世紀におけるエネルギー、情報、そしてあらゆる産業のキーマテリアルであるシリコンカーバイドの極めて優れた特性とその開発状況を紹介するとともに、期待されている具体的適用例と、その結果得られる驚くべき効果を指摘する。さらに防衛技術への応用を考え、パワーデバイス、あるいは高周波デバイスとしての適用の可能性を探り、RMARevolution of Military Affairs)の鍵である戦略物質として位置づける。

2 今、パワー半導体

 半導体王国の凋落が叫ばれて久しい。しかしながら、まだまだ負けない半導体も多くある。イメージセンサやパワーデバイスなどである。特に半導体パワーデバイスは省エネの鍵とされ、自動車、エネルギー関連(太陽電池、風力発電等)、白物家電、産業機器、高速鉄道、スマートグリッド、民生機器、防衛装備等で爆発的な需要が予想されている。これらパワーデバイスに必要なことは、オン抵抗が小さく、スイッチング時間が短く、高温動作に適していることである。

3 シリコンに替わるシリコンカーバイド

そこで注目されているのがシリコンカーバイド SiC である。シリコンカーバイドは、熱伝導率、飽和電子速度、絶縁破壊電界が大きく、例えば熱伝導率はシリコンの3倍以上、ガリウム砒素の9倍以上に達し、金属銅のそれを上回ることが知られている。図に各種半導体の熱伝導率を示す。またそれ自体、シリコンよりも高周波性に優れるが、最近注目されているXバンドよりも高い領域で使用される窒化ガリウム GaN デバイスにとっては必要不可欠の結晶成長基板である。

            

4 シリコンカーバイドの開発

 シリコンカーバイドの単結晶は特別に設計された高周波炉を用い、2300℃以上の高温で昇華法により成長させるために、良質な単結晶を得るのには多くの困難を伴う。過去10年間に歪みや欠陥を低減すること、及び結晶を大口径化することに多くの努力が注がれてきた。10年前は2インチ径であったものが、2004年にはデバイス化の最低目安である3インチに達し、その後4インチ、さらに2010年には6インチの結晶も試作されている。また、デバイス作成時に致命的な影響を与えるマイクロパイプと呼ばれる結晶中の欠陥も大幅に減少し、最近では1平方センチ当たり1個以下の、いわゆるマイクロパイプフリー結晶も作成されるようになってきた。防衛大学校でもこのシリコンカーバイド単結晶の欠陥評価に若干は貢献していると考える。

5 防衛技術とシリコンカーバイド

 シリコンカーバイドを用いたデバイスの防衛技術への応用を考えてみよう。まず、シリコンカーバイドパワーデバイスにより、耐熱、耐圧(絶縁破壊電圧)、熱伝導を大幅に改善できることから、艦船、航空機、戦闘車両の大幅な性能向上が期待される。例えば艦船や戦車のガスタービン・エレクトリック、あるいはディーゼルエレクトリック駆動は、低速時の省エネ性と大きなトルク、そして静謐性が魅力である。これにシリコンカーバイドを用いると、回路、装置の大幅な小型化が実現し、レイアウトの自由化、積載容量の増加等のメリットがある。さらにシリコンカーバイドパワーデバイスは効率が高いために熱損失が小さく、放熱量の減少、実効的なバッテリー容量の増加が指摘される。

 つぎに高周波デバイスを考えてみよう。現在、イージスシステムの高周波化、ハイパワー化のために採用されるのが、シリコンカーバイド単結晶を基板として、その上に作成した窒化ガリウムデバイス(GaN on SiC デバイス)である。いわゆるガメラレーダーも将来的にはガリウム砒素から窒化ガリウム素子に置き換わるであろう。この構造は、実は超高輝度白色発光ダイオードやレーザで既に広く普及しつつある。あるいは将来戦闘機コンセプトではカウンター・ステルス・ファイターを実現するために次世代ハイパワー・レーダー(先進統合センサー)が必要とされているが、これを達成するのはGaN on SiC デバイスである。

6 戦略物質シリコンカーバイド

 最近、戦略物質として希土類(レアアース)元素が注目されている。確かに現代のハイテクには必要な物質である。しかし希土類元素の役割は、言わば、「料理におけるスパイス」といえば言い過ぎであろうか?現在、希土類元素は安定供給をはかる努力だけでなく、代替物質の研究が精力的に進められている。しかしながら、シリコンカーバイドは代替の効かない「産業の米」、つまりシリコンに替わる「新々石器時代の米」そのものなのである。

 情報、輸送、エネルギー等の環境・省エネ技術はシリコンカーバイドなしには成立しない。はじめに述べたように、シリコン、ガリウム砒素、ガリウム燐、インジウム燐などの半導体のウエハは実に70~95%を日本が生産している。電子立国日本といわれるように、産業の米は日本が世界の中で最大、かつ独占的な生産国なのである。しかし、極めて残念ながらシリコンカーバイドだけは90%近くが米国に独占されているのである。

7 まとめ

 最新兵器を他国に渡す国は無い。防衛装備システムを開発できる国は限られている。デバイスから開発できる国はさらに限られる。そして材料から開発できる国はもっと限られている。戦略物質シリコンカーバイドは、将来装備開発の鍵であるだけではない。むしろ「産業の米を自給自足できるか?」ではなく、シリコンカーバイドも日本がナンバーワンになれるか、将来も日本が電子立国であり続けられるか否かという、正念場を迎えているのである。


「オバマ政権の安全保障政策」       国際関係学科       准教授 石川  卓

略歴
1992年 上智大学法学部卒
1994年 ジョージ・ワシントン大学大学院修士課程修了(国際関係修士)
1998年 一ッ橋大学校大学院博士課程後期修了(博士(法学))
1998年 東洋英和女学院大学社会科学部講師
2001年 同助教授
2009年 防衛大学校国際関係学科准教授
石川准教授講演内容

                             《概要》

オバマ政権の安全保障政策

「変化」の実態

「変化」を掲げて発足したオバマ政権の下で、米国の安全保障政策は、どのような「変化」を遂げてきたのだろうか。その「変化」には、イラクからアフガニスタンへの重点移行や多国間協調への傾斜など、オバマ政権発足前から生じていた側面も見受けられる一方で、核軍備の縮小や懸念国家に対する対話路線など、すでに限界や行き詰まりが顕在化している、あるいはしつつある側面も見受けられる。オバマ政権の誕生を助けたともいわれる「リーマン・ショック」がいまや同政権にとって重い足かせとなっている実情も踏まえ、その安全保障政策における「変化」の実態は。

 「リンケージ」的な性格は国力の相対的低下が自覚された時の対応策か、実績を重視して他国を評価する傾向は、公式な同盟国の意味の相対化をもたらす。


                             《レジメ》

1.オバマの打ち出した「変化」

・「対テロ戦争」の絶対性・拘束性の相対的低下

・経済的事情による拘束性の増大

・国際協調路線

  対ロ関係の「リセット」、米中協調

・敵対的勢力に対する対話路線

イラン、アフガニスタンの「タリバン穏健派」、パレスチナのハマス(、北朝鮮)

               ⇒ 包括的関与政策

2.GW・ブッシュ前政権期における「変化」の萌芽

・イラク戦争〔035月~〕=「体制転換」(regime change)の実践 → 泥沼化

・「体制転換」とは?

  テロ、大量破壊兵器(WMD)開発、「ならず者国家」を密に結びつけ、体制自体を問題に

  イラクを主対象とする「威嚇」 → イランや北朝鮮などにも圧力

  「ブッシュ・ドクトリン」と密接に関係、その一部をなす

・ブッシュ・ドクトリン

 ウェストポイント演説〔026月〕、「米国の国家安全保障戦略」〔029月、NSS 02

  テロ組織を念頭に従来の「抑止」の限界を主張し、「先制行動」を打ち出す

  但し、テロと結びつけられた「ならず者国家」が発動の主対象

・体制転換の行き詰まり

  北朝鮮に対する事実上の体制保証、イランとの対話模索

3.オバマ政権による「変化」の実態

・イラン → 依然として本格化しない交渉、むしろ関係は悪化

・敵対的な非国家主体(タリバン、パレスチナ) → 表面上、奏功していない

・国際協調路線による圧力の強化、正当性の確保

  対ロ関係の改善は一定の成功

    → 対イラン決議、S300売却中止、アフガン(096月の空域通過合意)

中国に対しては警戒感を強めている → 海洋進出、通貨問題

・敵対的勢力の「政策変更」を促すための、正当性への配慮を伴う協調的な圧力強化

イランに対する圧力強化等で一定の協調を実現するも、協調は限定的で、効果も乏しい

4.核政策に見る「変化」

・「核兵器のない世界」に向けて?

  「核態勢見直し」NPR報告104月〕

新戦略兵器削減(新START)条約〔104月〕

『米国の国家安全保障政策』〔105月〕

「変化」←――――――――――――――――――――――――――→ 現状維持

CTBT批准方針

    新型核兵器開発の停止

     消極的安全保証の条件付拡大

         先制攻撃・諌止の後退

          米ロの戦略的安定性重視

               核セキュリティ重視

                     戦略核削減

                        ミサイル防衛

          拡大抑止(通常戦力により依存した地域安全保障構造)

核開発基盤の堅持

十分な抑止力の維持(MDを含む通常戦力による代替・補完

                  「唯一の目的」「先行不使用」不採用

                                       戦術核兵器

                                      米印原子力協力

                                       核不拡散の重視










































  ・国際協調回復と国内支持確保との両立の難しさ

   DOEDOD21世紀の安全保障と核兵器』〔089月〕 → RRW、核開発基盤の重視

 スムーズにはいかない新START条約批准審議

NPT再検討会議〔105月〕の「成功」

手段の整備にはある程度成功

但し、手段として奏功するかは別問題

5.手段としての国際協調とその弊害? ―― むすびにかえて

・「リンケージ」的な性格

国力の相対的低下が自覚された時の対応策

・実績を重視して他国を評価する傾向

公式な同盟国の意味の相対化


「オバマ政権の軍事戦略」    安全保障・危機管理教育センター    教 授 山口  昇
  略歴
1974年 防衛大学校卒 陸上自衛隊入隊
1988年 フレッチャー法律外交大学院修士課程修了
1999年 在米大使館防衛駐在官
2006年 陸上自衛隊研究本部長(陸将)
2008年 退官
2009年 防衛大学校教授
2010年 同安全保障危機管理センター長

山口教授講演内容

                             《概要》

オバマ政権の軍事戦略

QDR(Quadrennial Defense Review:4年毎の国防計画見直し)を中心に


オバマ政権は、本年春あいついで安全保障政策文書を発表した。「国家安全保障政策」、「核態勢見直し」、「ミサイル防衛見直し」、そして「4年毎の国防計画見直し(QDR)」である。中でもQDRは、オバマ政権としてその任期4年間にどのような国防態勢を目指すかという点を明らかにしている。ブッシュ政権が2006年に出したQDRは、「テロとの戦い」とそのための同盟・友好国の協力が強調されていた。これに対して今回のQDRは、世界の各地域をよりきめ細かく見た上で、アメリカの地域戦略を明らかにしている。アジア太平洋地域に関してもそうである。アメリカのアジア戦略が明らかになった今、日本の対応が問われている。今年末の新「防衛大綱」はこの議論を活発化させる好機である。


《レジメ》

1 はじめに

 オバマ政権は、本年春あいついで安全保障政策文書を発表した。「4年毎の国防計画見直し(QDR: Quadrennial Defense Review)」、「弾道ミサイル防衛見直し(Ballistic Missile Defense Review)、「核態勢見直し(NPR: Nuclear Posture Review)」及び「国家安全保障戦略(NSS: National Security Strategy)」である。中でもQDRは、大統領が就任直後その任期である4年間にどのような国防政策を採用するかという点を明らかにすることから注目される。以下、本年2月に公表されたQDR2010を中心に、オバマ政権の軍事戦略を解説する。

2 アメリカの安全保障・防衛戦略・政策の体系

(1)     国家安全保障戦略の構造

大統領が示す「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」に基づき、国防長官が「国家防衛戦略(National Defense Strategy)」を策定し、これを統合参謀本部議長が「国家軍事戦略(National Military Strategy)」の形に具体化する仕組み。この他必要に応じ、本土安全保障、海洋安全保障、テロ対処等の機能別戦略が策定される。

(2)     ボトムアップレビュー(BUR):1993

クリントン政権発足直後、冷戦終焉後の米国防態勢を根本から見直し、2つの大規模地域紛争(2MRC)への対処能力を目標として総兵力220万を140万(欧州10万、アジア太平洋10万)まで削減することを計画。

(3)     4年毎の国防計画見直し(QDRQuadrennial Defense Review

          QDR1997BURをほぼ踏襲。部外諮問機関である国防委員会(National Defense Panel)は、報告書「国防を変革する(Transforming Defense)」により変革の必要性を示唆。

          QDR2001:「不安定の弧(Arc of Instability)」に着目→「世界規模における展開態勢の見直し(Global Posture Review)」

          QDR2006:「地球規模におけるテロとの戦い(Global War on Terror)」におけるパートナーとの協力を強調、中国の動向を注視。

3 オバマ政権の軍事戦略における重点

QDR2010は、①今日の戦争における勝利、②紛争の防止及び抑止、③多様な事態における侵略撃退能力の準備、④全志願兵による軍の維持を強調。このために以下を重点として戦力のバランス回復(rebalancing)を目指すとしている。

(1)      本土における防衛及び文民当局(civil authority)に対する支援

軍による被害対策(consequence management)支援能力の向上、放射能・核物質の遠隔探知機能の開発促進、即製爆弾(IED)対処能力の向上などを重視

(2)      対反乱作戦、安定化作戦、対テロ作戦における勝利

情報・監視・偵察(ISR)のための有人・無人航空機の増強、特殊作戦部隊、全般目的戦力(general purpose forces)の反乱対処・安定化作戦・テロ対処能力の向上、アフガニスタン及びパキスタンに関する地域専門家の育成などを重視。[注:米国としてテロリストネットワークに対する打撃が奏功しているとの認識。一方、アフガニスタン・パキスタン及びイラクにおいては、掃討・保持・建設(Clear-Hold-Build)方式により、治安回復と社会・経済復興のスパイラル実現を目指し、テロの原因となる貧困、不平等を根絶する根気強い努力が必要]

(3)     パートナー国家の安全保障能力構築

(アフガニスタンやイラクなどの)支援対象国家における治安部隊の能力向上、統治機能強化のための教育・訓練などを重視

(4)      接近拒否(anti-access)環境下での抑止及び撃破

          将来における長距離攻撃能力強化、海面下での優位追求、前方展開基地・部隊の非脆弱化、宇宙に対するアクセスの確保などを重視。

          国防省報告書「中国の軍事力」は、西太平洋海域において米軍のアクセスが妨害される状況を懸念。QDR2010においては、空軍及び海軍が、統合エアシーバトル構想を深化させていくことで合意した旨記述。

       

(5)     大量破壊兵器拡散の防止及び対処

(6)      サイバースペースにおける作戦

4 日本の安全保障政策に対するインプリケーション

(1)      脅威認識の変化

脅威の「ハイブリッド化」(QDR2006が指摘した4種類の危険が複合的に顕在化)、また、国際公共域(グローバルコモンズ)における混乱型の危険

      

(2)      核戦力と拡大抑止(核態勢見直し(NPR)のポイント)

○ 核兵器の拡散と核テロを防止(核テロ=喫緊の課題と認識)

○ 米国の国家安全保障戦略における核兵器の役割を低減

○ 引き下げられた核戦力水準での、戦略的な抑止と安定を維持

○ 地域的な抑止を強化し、同盟国及び友好国を再保証○ 

※ 同盟国に対する拡大抑止(核の傘)の信頼性に対する疑問を背景として、「友好国・同盟国が独自の核戦力による抑止態勢を求める動機を低減(reduce)」するため、Safe, secure, and effective nuclear arsenal を維持するとともに、米国及び友好・同盟国の通常戦力を強化するとの方向を明示

※ 核実験を行わずCTBTの批准を目指す、新型核弾頭を開発せず、過去にテスト済みのデザインに基づく部品で延命、既存弾頭の改修や他弾頭からの部品の再利用・部品交換を行う。[注:“There is absolutely no way we can maintain a credible deterrent and reduce the number of weapons in our stockpile without either resorting to testing our stockpile or pursuing a modernization program. “(2009年末ゲイツ国防長官)

(3)      北東アジアに対するコミットメント

         北東アジアにおいて、日本及び韓国と緊密な協力の下、米軍の展開態勢を再編するとともに、日米・米韓同盟の役割と能力を再構築して、集団的な抑止力と防衛力を強化。

        日本・韓国に対する拡大抑止の提供を含め、地域の安定に必要な米軍のプレゼンスを適応。

        在日米軍の長期的なプレゼンスを保証するとともに、グアムを地域的なハブにする「再編ロードマップ」合意の実現に向けて努力。

          弾道ミサイル防衛見直し(BMDR)においては、日米BMD共同開発に関し、米国が目指すべき国際協力の顕著な(outstanding)例であると評価。

          尖閣諸島に関する米政府高官発言(9月):「日米安保条約5条の適用範囲日本の施政下にある領域における武力攻撃に対する共同対処」

(4)      日本の選択

         「日米同盟の基本」への回帰(NBR報告「Managing Unmet Expectations」)

          安保防衛問題懇談会報告における「平和創造」と「動的抑止」

        


第16回現代の安全保障講座 (平成21年12月10日)
統一テーマ ロシア情勢について

                       
防大教授による「現代の安全保障講座」

                      ロシア大使館員も聴講

 全国防衛協会連合会(山口会長)は平成211210日午後、防衛省の後援、防衛大学校同窓会及び()防衛大学校学術・教育振興会の協賛を得て、グランドヒル市ヶ谷(東京都新宿区)において、16回目となる「防衛大学校教授による『現代の安全保障講座』」を開催した。今回はロシアの国家戦略やウクライナ、そして化学兵器に焦点を当てた講座で、ロシア大使館関係者や東欧に関心を持つ大学生等の参加も見られた。

        日時:平成21年12月10() 午後1時から  場所:グランドヒル市ヶ谷(東京・新宿区)

                             講座内容と講師
① 「プーチン政権後のロシアの国家戦略」 人文社会科学群国際関係学科        准教授 山嵜 直美

     ② 「ウクライナから見たロシア」       安全保障・危機管理教育センター       教 授 馬渕 睦夫

     ③ 「化学兵器の概要」                  応用化学科             教 授 小泉 俊雄

主催 : 全国防衛協会連合会  後援 : 防衛省 
協賛 : 防衛大学校同窓会 防衛大学校学術・教育振興会
 プーチン政権後のロシアの国家戦略     准教授 山嵜 直美
略歴
1977年 東京大学文学部卒
1983年 オハイオ州立マイアミ大学政治科学部修士課程修了
1986年 財団法人世界政経調査会研究員
1987年 財団法人日本国際問題研究所研究員
1993年 防衛大学校助教授
講義概要

                  政軍関係から見たロシアの安全保障政策

                           <パンフレット>

 2008年5月にメドヴェージェフ政権が発足し、プーチン首相とのいわゆるタンデム(縦並びの2頭立て2輪馬車)政権がスタートした。2人の仲は今のところきわめて親密であると思われる。したがって、リベラルと思われたメドヴェージェフ政権したでも、ロシアの対外政策の基本は変わっていない。特に、ウクライナ等とのガス紛争や、08年8月のグルジア戦争など、周辺国(とりわけ旧ソ連諸国)からは、その大国意識・勢力圏的発想が疎まれてきた。

 しかし、ここでロシアが伝統的に安全保障上の強いコンプレックスを持つ国であることを忘れてはならない。同時に、現在の特殊な事情として、ロシア軍の存在がある。ロシア軍は、ソ連崩壊後、改革されずに放置されてきた。いま、ロシアは強引とも見えるやり方で軍の再編を行おうとしているが、この帰趨が今後のロシアの行動を占う重要な要素の一つとなろう。そこで、本講座では、政治と軍の関係からロシアの安全保障政策を考えてみたい。

                           <講演要旨>

プーチンは2000年に首相に就任すると「安全保障概念」と「軍事ドクトリン」を定めた。以前、安全保障会議の書記として作成に関っており、基本は大規模紛争であるが、一部国際テロなども含めている。しかし、02年の劇場占拠事件や04年の学校占拠事件を受けて、概念の改定命令を出し、国防省改革に乗り出した。

改革では参謀本部の位置付けの確定、大規模戦争対処から地域(ローカル)紛争対処への脅威認識(「概念」)の変更も含まれた。また、軍の給与、装備・訓練、社会保障、威信の回復などの利益の確保、及び志願制への移行と常時即応部隊として師団から旅団への再編などの軍改革を行って大統領によってコントロールできるように企図した。

しかし、概念が思うように進捗せず、まずは装備の充実を行おうとしたが、これも概念がないとなかなか進捗しない。こうしたことも関連したか、07年2月、軍歴のないセルジュコフを国防相に任命し、ドラスティックな改革を進めた。

08年5月、メドヴェージェフ政権が誕生すると、間もなく南オセチア紛争が発生。この経験が再編を進捗させ、将校・将軍の削減や師団から旅団への移行などを含む軍再編案の「新概観」構想を発表した。これは第2次大戦後最大規模の軍再編である。これをベースに09年5月、大規模戦争は考えていないと見られるような「安全保障戦略」が承認された。軍の運用を定める「軍事ドクトリン」も近く発表されると思われるが、プロの下士官が伝統的にいないので、その養成には時間が掛かる。

西側の尺度からすると、ロシアは依然として非民主的・非資本主義的な側面が多々あるし、外交面でも旧ソ連圏への勢力圏的発想が強い。しかし、ロシアは過渡期にあり、国家の利害、威信を軽視すれば逆効果になる。

オバマ政権は新たな核軍縮条約を結ぼうとしており、また核不拡散分野での協力も進展しそうである。21世紀の脅威に対処するためには、脅威認識を共有しているロシアの協力は必須であるが、国際環境悪化や経済状況によっては軍改革が遅れ、ロシアの態度硬化も予想される。

                           <講演レジメ>
1 初めに:コソボからミュンヘンへ
(1)コソボ紛争(1999.3-6)
 ・ コソボ紛争におけるNATOによるユーゴ空爆:
   -ロシアは、反対を無視されたため、NATOとの関係を断絶
 ・ 2000年、プーチンが就任してNATOとの関係修復
 ・ 2001年、9.11事件でプーチンはブッシュ政権に支援を申し出、関係が緊密化する
   -核軍縮では齟齬が生じたが、核不拡散分野での米ロ協力は大きく進展した
 ・ しかし、その後、ブッシュ政権はユニラテラリズム的傾向を強め、他方、プーチン政権の権威主義的側面が注目され、
  ロシアと欧米の関係は徐々に悪化する。
(2)ミュンヘン安全保障会議(2007.2.10)
 ・ プーチンは初めてブッシュ政権を露骨に批判した
   -以後ロシアの強面な言動が目立ち、ロシアと欧米との関係は冷戦後最低レベルに低下

ロシアはなぜそれほど怒ったのか。ロシアはどのような安保政策を考えているのか。
21世紀の脅威に対するロシアと欧米の協調は可能なのであろうか?

2 西の不振と東の不満、そして置き去りにされた共通利害
(1)西の不信
 ・ ユーコス事件(2003.10)
 ・ グルジア(2003,11)・ウクライナ(2004.11~12)等での政権交代「カラー革命」
 ・ ウクライナとのガス紛争(2006.1)
 ・ ポリトコフスカヤ(2006.10)、リトビネンコ(2006.11)暗殺事件
 ・ 国営巨大企業の相次ぐ設立(2007)
(2)東の不満
 ・ ABM条約失効とモスクワ条約(2002)
 ・ グルジア、サーカシュビリ政権の軍拡と米国による援助(2004~)
 ・ NATO拡大(1999東欧3国/2004バルト3国加盟/2006ウクライナとグルジア加盟の論議開始
   /2008.4ブカレストNATO首脳会議)
 ・ 米国ミサイル防衛(MD)の欧州配備計画(2006~2007)
 ・ コソボの独立宣言と欧米諸国による承認(2008.2)

* 南オセチア紛争(2008.8)

(3)置き去りにされた共通利害
 ・ 核軍縮
 ・ WMD不拡散(ロシアのloose nuke問題、イラン)
 ・ テロとの戦い

3 プーチンのいらだちの背後にあるもの:進まない軍事改革(政軍関係の再確立と軍改革)
 - 新たな脅威に関する政軍間の合意形成と、それに対応した軍再編
(1)ソ連時代の政軍関係
 ・ 特殊な事情 → 政治の中にいる軍、参謀本部の独立
 ・ 「(共産党による)シビリアンコントロール」
   - 政治による監視と利益の享受
   - イデオロギーの共有に基づく分業体制:軍事ドクトリンの政治的側面と軍事技術的側面
     (後者は軍による独占的管轄権)
 ・ しかし、ペレストロイカとソ連崩壊の結果、コントロールは「消滅」
(2)エリツィン政権期(1991.12.25~1999.12.31)
 ・ 民主化といいながら、実は権力の分散が起こっていた
 ・ 政治に軍を引き込んだエリツィン → 1993年憲法と1993年軍事ドクトリンー国防相との「個人的絆」を重視
 ・ 第一次チェチェン紛争を経てたまった軍の不満 → 1995年選挙への軍人の大量出馬
 ・ 軍に対する無視と放任:進まなかった軍改革、軍は「自制」したが「独立性は維持」
(3)プーチン政権期(2000~2008.5)
 ・ 2000年 「安全保障概念」と「軍事ドクトリン」
 ・ 2002年 劇場占拠事件とベスラン学校占拠事件 → 概念改定命令とその無視
 ・ プーチンの課題:「大統領によるコントロール」
  - 国防省改革
  - 参謀本部の位置づけの確定
  - 脅威認識(概念)の変更:大規模戦争対処から地域・ローカル紛争対処へ
  - 軍の利益の確保:給与、装備・訓練、社会保障、威信の回復
  - 軍改革:職業軍化(志願制への移行)と常時即応部隊・師団から旅団への再編
 ・ 2007.2.15 セルジュコフ国防相の任命
(4)メドヴェージェフ政権(2008.5~)
 ・ 2008.8 南オセチア紛争での経験
 ・ 2008.10 「新概観」構想(軍再編案)発表
 ・ 始まった第2次大戦後最大の軍再編
 ・ 2009.5 「安全保障戦略」の承認

4 結論と今後の展望
(1)分析の結果
 ・ 西側の尺度でいえば、ロシアには非民主的、非資本主義的側面は多々ある。外交面でも、旧ソ連圏への
   勢力圏的発想が強い
 ・ しかし、ロシアが依然、過渡期であるということを忘れてはいけない。ロシアの利害、威信を一方的に軽視すれば、
  逆効果となる。
(2)今後の展望
 ・ 国際社会が21世紀の脅威に対抗するためにはロシアの協力は必須であり、ロシアも欧米と脅威認識を共有している。
 ・ オバマ政権のアプローチは有効:新たな核軍縮条約が結ばれようとしている。不拡散分野での協力も進展しそうである
 ・ ただし、ロシアの軍改革は時間を要する難題。国際環境悪化や経済状況ではさらに遅れる。そうした場合、ロシアの態度硬化が予想される。

ウクライナから見たロシア     教 授 馬渕 睦夫
略歴
1968年 京都大学法学部中退 外務省入省
1971年 ケンブリッジ大学経済学部卒
1995年 東京都外務長
1999年 駐タイ特命全権公使
2000年 駐キューバ特命全権大使
2005年 駐ウクライナ特命全権大使
2008年 防衛大学校教授
講義概要

               両国関係の帰趨は我が国にとっても他人事にあらず

                            <パンフレット>

 ソ連邦の崩壊により独立したウクライナは欧州最後の大国である。重工業地帯及び穀倉庫としてソ連邦を支えてきたウクライナは、オレンジ革命政権の下で欧州総合政策を国是として推進している。EU加盟及びNATO加盟が実現するか否かのカギを握っているのはロシアである。

ロシアにとって、超大国に復帰するためにはウクライナを自己の勢力圏に引き戻すことが至上命題である。ウクライナが欧州ファミリーの一員となるか、あるいはロシアの勢力下に置かれるかは、その動向は我が国を含む世界の戦略地図に大きな影響を与えずにはおかない。

 歴史的経緯から、ウクライナはロシアに対する感情にはきわめて複雑なものがある。ウクライナはどのようにロシアとの関係をマネージしようとしているのか考える。

                           <講演要旨>

ウクライナは欧州最大の面積(日本の1.6倍、ドイツとポーランドを加えたのに匹敵)を有し、人口(4600万人)も欧州有数。ガスや石油の対欧州輸送網があり、EUとロシアの狭間にある地政学的位置で、EUの安全保障と深く関係している。

ウクライナは10世紀のキエフ大公国に始まる。城壁に囲まれた市は当時のパリと同じ人口4万人を誇る大国で、教会が400もあるほど大変信心深い国民であった。

13世紀にモンゴルに滅ぼされ、その後、ほんの2年間くらい独立するが、今日まで大国の支配に翻弄されてきたが、自国の歴史に対する誇りを持っており、日本人にも大いに参考になるのではないだろうか。

04年にオレンジ革命があり、親欧派が勝利したが大統領権限を弱めるような妥協をせざるを得なかった。それが現在の政情不安の原因にもなっている。しかし、一神教でないウクライナ正教で土着の信仰心が深く(日本との共通点がある)、温厚な国民性や議論で民意を反映するコサック精神と民度の高さから、社会は比較的安定している。

親露派と親欧米派という図式で語られることが多いが、全ての政治家は親ウクライナ、即ちウクライナの独立を望んでいる。

歴史的関係からも、最もロシア人の心理を知っており、ウクライナ大飢饉やウクライナ蜂起軍の名誉回復などの歴史認識問題ではタフに交渉している。歴史問題で日本も主張すべきはしっかり主張する姿勢は見習うべきものがある。

天然ガスのロシア 依存が80%と高く、また、対EU向けガスの80%がウクライナ経由であることから、パイプラインが国際政治に直結し、価格の急変動をもたらしたりする。

ウクライナはEU及びNATOに加盟を希望している。EUは仕方ないとしても、NATOへの加盟は許せないのがロシアである。従って、加盟行動計画(NATO・MAP)への参加意思表明書簡は出しているが、実現はしていない。

ウクライナは親日で日本文化に高い関心を持っており、近代化とアイデンティティの両立で日本に学ぼうとしている。日本は「自由と繁栄の弧」を打ち出したタフさもあり、ロシアも関心を持っている。対GUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)協力で対話や経済・技術協力を推進するべきである。

                          <講演レジメ>
1 欧州最後の大国ウクライナ
(1)面積(60万平方キロ)は欧州最大、人口(4600万)は欧州有数
(2)東西南北文明の十字路 → 現在もTransit(ガス、石油の対欧州輸送網)国家、EUとロシアの狭間という重要な地政学的位置 → EUの安全保障と深く関係
(3)ウクライナ国家の形
 ① 欧州志向
 ② 美しい自然
 ③ 苦難な、しかし誇りうる歴史
 ④ 伝統を大切に維持
 ⑤ 優れた文化と人的資源
 ⑥ 豊富な天然資源
(4)不安な政情
 ① 2004年のオレンジ革命
 ② ユーシチェンコ大統領VSティモシェンコ首相VSヤヌコビィチ最大野党党首
 ③ 大統領と首相の権限争い(仏の大統領制とも独の首相制とも異なる)
 ④ 次期大統領選挙(2010年1月17日) ヤヌコビィチがややリード
(5)比較的安定した社会
 ① 一般国民の民度の高さ
 ② 温厚で素朴な国民性
 ③ 信仰深い国民(正教だが、土着信仰の影響強い)
 ④ ウクライナ・コサック精神
 ⑤ 現在の金融危機を乗り越えられるか?(2008年11月、IMFスタンドバイ・ローン164億ドル。
   IMFのウクライナ経済政策に対する不満)

2 ロシアとの関係
(1)「親露派」対「親欧米派」との図式は誤解の基 → 全ての政治家は親ウクライナ
(2)ロシア(人)に対する態度
 ① 歴史的関係から、最も良くロシア人の心理を知っている
 ② タフであること
 ③ 対立型思考と忍耐型思考
 ④ 歴史認識問題(ウクライナ大飢饉《ゴロドモール》、ウクライナ蜂起軍の名誉回復等)
(3)天然ガス戦争 - パイプラインの国際政治学
 ① 2006年と2009年の対ウクライナ・ガス供給停止
       → EUを直撃(ロシアの対EU向けのガスの80%がウクライナ経由)
 ② 複雑なガス輸入ルート(不透明な仲介業者の存在)
 ③ ガス価格の急上昇 - 95ドル(2006年) → 450ドル
 ④ エネルギー源の対ロシア依存
  ・ 天然ガス - 国内需要の約80%
  ・ 石油 - 国内需要の約80%
 ⑤ ロシアのグルジア侵攻とウクライナ → ロシアを経由しないパイプラインVSウクライナを経由しないパイプライン
 ⑥ 両国貿易額(400億ドル)ー 輸出入ともロシアが最大の相手国(各30%)
 ⑦ 全土に約1000万人のロシア人が在留
(4)EU及びNATO加盟問題とロシア
 ① EUとの連合協定締結交渉
 ② NATO・MAP(加盟行動計画)への参加意思表明書簡の発出(2008年1月)MAP参加は未だ実現せず
 ③ ロシアはいずれも反対
 ④ ロシア黒海艦隊のクリミア駐留(2017年が期限)とクリミア自治共和国の特殊な地位
    (ロシア人68%、ウクライナ人24%、クリミア・タタール人12%)

3 日本との関係
(1)親日国
(2)日本文化に対する高い関心 ー 日本人の国民性を学ぶことにより、ウクライナとは違った文化を持つ日本に
   対する尊敬の念を養う学校教育 → 女生徒マリーナ3の日本への熱い期待
(3)日本に学べ - 近代化とアイデンティティの両立
(4)日本の対ウクライナ協力
 ① 民主化、経済改革支援
 ② 企業の近代化(省エネ等)への民間企業協力
 ③ 「自由と繁栄の弧」構想 - 伴走者の思想は、日本の援助哲学の原点
 ④ 対GUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)協力 - 日・GUAM対話(2007年6月以降4回実施)、対GUAM経済・技術協力(省エネ、貿易、観光セミナーの開催)
 
 
 化学兵器の概要      教 授 小泉 俊雄
略歴
1983年 芝浦工業大学工学部工業化学科卒業
1985年 東京工業大学大学院総合理工学研究科電子化学専攻修士課程修了
1988年 同博士後期課程修了(工学博士)
1991年 東京工業大学資源化学研究所助手
1992年 防衛大学校化学教室助手
2005年 同応用化学科教授
2009年 同応用化学科長
講義概要

偶然発見された神経ガス~冷戦下の化学兵器開発競争~化学兵器の拡散

                            <パンフレット>

 化学兵器に使われた化学剤の1つ「サリン」という名が広まったのは、松本サリン事件以降である。化学剤サリンは神経ガスに分類され、1938年にドイツで合成された。殺虫剤の探索研究の過程で偶然にタブンという神経ガスが発見され、その改良型がサリンである。サリンやタブンは先の大戦では使用されることはなかった。

 しかし、冷戦下、米ソを中心として化学兵器の開発競争が繰り広げられた。サリンのような極悪な化学物質がある一方で、我々は薬などの化学物質の助けを借りる必要がある。マスタードガスという毒ガスは、抗がん剤の生みの親でもある。
本講座では、化学物質の正しい考え方を概説し、戦争に使われた化学剤の種類と開発の歴史をながめ、化学兵器禁止条約までを解説する。

                           <講演要旨>

毒と薬は表裏一体で、少量の化学物質が生体内に入った時、異常を来たすものが毒物です。化学兵器のように神経系に作用し直ちに症状を表わす急性毒性と発がん性物質のような慢性毒性がある。

急性毒性の強さはその化学物質の投与で動物の半数が死亡すると推定される「半数致死量」(LD50 )で表わされるが、直ちに人間に当てはめることはできない。あくまでも化学物質の毒性の目安で、数値の少ない方が毒性は高い。

化学兵器は1915年、ドイツ軍がイープル(ベルギー)ではじめて使用した。塩素ガスで5000人が死亡したといわれ、大量破壊兵器の最初の使用例である。更に皮膚や粘膜に障害を与えるマスタードガス(びらん剤)17年に同所で使用。ドイツ軍は第2次大戦中も化学兵器の開発を進め、タブンやサリンも開発砲爆弾に充填したが使用することはなかった。

2次大戦後、米ソはこのことで大きな衝撃を受けた。両国はドイツで開発に携わったトップの科学者達から情報提供を受け、ソ連はタブンを製造、米国はタブンより毒性が強いサリンに興味を持った。こうして、化学兵器についても開発競争が激化、米国は57年、ソ連は59年にサリン備蓄に成功した。

他方、英国が神経剤(V剤)を発見すると、米国がVXの開発に成功する。対抗してソ連はVXに加え、サリンよりも強力なソマンの製造に着手、60年代後半にかけて米ソの化学兵器開発競争は頂点に達した。

その後、米国では砲弾からのサリン漏洩などの問題が表面化し、ソ連ではゴルバチョフが87年に一切の化学兵器の製造を中止すると約束するなど化学兵器軍縮で主導権を発揮した。20年経過した97年、化学兵器禁止条約(CWC)が発効、実施状況を監視する機関として化学兵器禁止機関、(OPCW)がハーグに設置された。

                          <講演レジメ>
1 はじめに
 化学兵器は、1915年にドイツ軍がベルギーのイープルで使用したのが最初です。このとき使われたのが塩素ガスで敵軍兵士に向かって放出されました。5千人が死亡したと伝えられ、大量破壊兵器の最初の使用例でもあります。その当時、塩素ガスは利用法がほとんどなく余っていたのでこんな使われ方をされてしまいました。現在ではポリ塩化ビニルの製造などで大量に使用されています。ポリ塩化ビニルは高分子化合物で電線の被覆材などに広く使われ、なくてはならないプラスティックの一つです。一方、今日お話しする化学兵器で使われる化学物質のほとんどは人に対する高い殺傷能力をもつ化合物の探索研究のなかで開発されました。従って、役に立つ利用法はありません。オウム真理教が使ったサリン(神経ガス)はその代表例です。農薬の開発過程でタブンが発見され、その改良型がサリンです。

 本講演では、まず毒性について概説し、次いで神経ガス発見のもとになった農薬について触れてから化学兵器について解説していきます。

2 毒物と毒性について
 毒、毒物は英語でpoisonといい、その語源はラテン語の飲み薬という意味のpotioに由来します。毒は古代の昔から薬と表裏一体の関係にあったわけです。体が処理(解毒)できない位の量の化学物質が体内に入り込むと毒としての症状が現れます。一般的に、少量の化学物質が生体に入った時、異常をきたすものを毒物といいます。

 毒物が示す性質は、急性毒性と慢性毒物に分けられます。急性毒物とは、毒物が生体内に入ったとき直ちに症状として現れる性質です。神経系に作用するふぐ毒やへび毒そして化学兵器に使われる化学剤などがこれにあたります。慢性毒性は、発がん物質などのように長期間に亘って生体内に取り込まれることによって発現する毒性をいいます。

 急性毒性の強さの表し方としてよく用いられる指標に「半数致死量(LD50)」があります。急性毒性を示す化学物質を投与された動物の半数が死亡すると推定される量(50% lethal dose)として定義されるので半数致死量といいます。動物実験から算出されたLD50値を算出されたLD50値を直ちに人間に当てはめることはできません。LD50の値はあくまでもその化学物質の毒性の目安でしかありません。LD50の値が小さいと毒性が高いことになります。

3 有機リン系殺虫剤と神経ガス
 初期の農薬の主役は塩素を含む有機塩素系殺虫剤でDDTはその代表例でした。非常に優れた殺虫力をもっていましたが、残留性や環境汚染のための40年近く前に使用禁止にになりました。現在は有機リン系殺虫剤が中心であり、かなり安全な農薬が開発されています。

 1930年代、ドイツは穀物収穫量向上のためそれまでの高い輸入農薬を自国で安価で製造することを決めました。ドイツ人学者シュラーダーは、その農薬開発の過程で有機リン系化合物が有望な殺虫剤となりうることを見出し、殺虫効果の高い化合物の探索研究を進めた結果、偶然にも人畜に対して毒性の高い化合物を発見しました。これがドイツ陸軍の目にとまりタブンといわれる神経ガス(神経に作用する致死性化学剤)として新しい化学兵器に加えられました。その後シュラーダーはタブンより10倍の毒性をもつサリンを開発しましたが、第二次世界大戦は毒性の弱い有機リン系殺虫剤の研究を進め、パラチオンという農薬を見出しました。

4 化学兵器として使われる化学物質
 1915年、ドイツ軍はベルギーのイープルで塩素ガスを最初の化学兵器として使い、さらにマスタードガスという皮膚や粘膜に障害を与えるびらん剤を開発し1917年に同じ場所で敵軍に対して使用しました。ドイツ軍は第二次世界大戦中も化学兵器の開発を進め、上記のようにタブンやサリンを開発し、砲弾や爆弾にこれらを充填し化学兵器を製造し備蓄しましたが、使用に踏み切ることはありませんでした。

 ドイツはタブンやサリンを第二次世界大戦末期に備蓄していましたが、他の諸国が所有していた化学兵器はホスゲンやマスタードを充填した爆弾や砲弾でした。ホスゲンやマスタードガスは第一次大戦でこそ大規模に使用されましたが、防護策が普及したため第二次大戦の戦場で化学兵器が戦略的に使われることはありませんでした。

5 冷戦下での化学兵器開発競争
 第二次世界大戦後、アメリカやソビエトはドイツがサリンなどの神経ガスを保有していたことに大きな衝撃を受けました。ドイツで化学兵器の開発に携わっていたトップの化学者の多くはイギリスやアメリカへの情報提供に協力しました。アメリカ陸軍はタブンよりサリンに興味を持ちました。それは、サリンの毒性がタブンより強く、揮発性に優れ安定性も高いことから軍事上の価値が大きいと判断したからでした。ソビエトもドイツ軍の神経ガスに関する情報の収集に努めました。ソビエトの技術者達は、逮捕されたドイツ人化学者の協力を得て、製造工程が比較的単純なタブンを製造しました。

 アメリカはソビエトが神経ガスの開発に乗り出しているのに危機感をもちました。タブンを製造しているソビエトが大陸間の航続距離をもつ爆撃機をもてばアメリカ本土が脅威に曝されると考えたからです。アメリカが軍事的に有効なサリンの備蓄量を達成したのは1957年です。ソ連はアメリカがサリンの製造を進めているとの確信を深め、化学兵器の開発に遅れまいとしました。タブンの製造に成功した後、サリンの工業規模での開発を始めました。1959年になるとソビエトはサリンを純度良く大量に製造できるようになりました。

 イギリスはヘビ毒に類似した性質をもつ新しい新経済(V剤)を発見し、その後の開発研究はアメリカに移されました。アメリカで製造されたV剤の一つであるVXは最終的に5千トンに達しましたが、砲弾などに充填されることなく多くは貯蔵されたままとなりました。ソビエトはアメリカが開発しているVXに加えてサリンより強い神経ガスであるソマンの大量製造にも着手しました。1960年代後半にかけて米ソの化学兵器開発競争は頂点に達しました。その後アメリカでは、純度がやや低いサリンを充填した砲弾が2年も経過するとサリンの漏えいが始まるなどの問題が表面化し、またVXを使用した野外実験で大量に羊が死亡するという事故も起こし、神経ガスの開発は抑制される方向に向かいました。ソビエトもゴルバチョフが1987年に一切の化学兵器の製造を中止するとい約束するなど化学兵器の軍縮で主導権を発揮しました。

 20年以上もの長い間のん交渉の末1997年に化学兵器禁止条約(CWC)が発効し、ロシアやアメリカを含む多くの国々がCWCに批准しました。CWCが発効したことによって、この条約の批准国による新化学兵器の開発は事実上不可能となりました。CWCは、化学兵器の開発、製造、備蓄及び移動を禁止しています。CWC発効後の実施状況を監視する機関として化学兵器禁止機関(OPCW)がオランダのハーグに設置されました。

 アメリカ、ロシアをはじめとするCWCの締約国は備蓄化学兵器と化学兵器製造施設の破壊作業を開始し、化学兵器廃絶に向けて歩きはじめました。CWCは前駆化学物質の貿易規制を強化し、世界の化学工業界に化学兵器の拡散に対する警戒感を強化させることによって、ならずもの国家やテロリストに拡散するのを防ぐことに役だっています。

6 化学兵器の拡散
 米ソが化学兵器の開発競争の繰り広げるなか、化学兵器は徐々に中東諸国に拡散していきました。1962年、エジプトイエメンに軍事介入し、ソビエトから供給されたホスゲンやマスタードガスを使用したとされています。サリンさえ使われたとの報告もあります。イラクは、イランーイラク戦争でまずマスタードガスを、さらに神経ガスを使うまでエスカレートさせました。イラクの化学兵器の被害者であったイランの国会議長は「化学及び生物兵器は貧者の核である」と演説し、化学兵器の開発に動き出しました。
 
 日本ではカルト宗教であるおうむ7真理教が1994年6月の松本サリン事件と1995年3月の地下鉄サリン事件を起こしました。この事件は日本のみならず世界を震撼させました。

7 おわりに
 CWCの発効により国家が徹国に対して化学兵器を使用する恐れは確かに減少しました。しかし、テロリストが一般の人々を対象として使用する危険性は存在します。核や生物兵器とともに今後もこうした兵器の廃絶に向けた努力が引き続き必要です。

第15回現代の安全保障講座 (平成20年12月12日)
統一テーマ 朝鮮半島について

                       
防大教授による「現代の安全保障講座」

当協会は防衛大学校教授3人を講師に、1212日、グランドヒル市ヶ谷(東京都新宿区)において、安全保障講座を開催した。 本講座は平成6年から開催しており、今回は15回目。

 国際的に動向が注目されている「朝鮮半島」を統一テーマに取り上げたこともあり、多数の聴講者があった。

                         日時:平成20年1212() 午後1時から

                         場所:グランドヒル市ヶ谷(東京・新宿区)

                             講座内容と講師

  ①「朝鮮半島情勢について」         国際関係学科             教授 倉田 秀也

  ②「朝鮮半島の軍事情勢について」    安全保障・危機管理教育センター  教授 吉田  真

  ③「核燃料サイクルについて」        応用物理学科              教授 新川 孝男

主催 : 全国防衛協会連合会 
後援 : 防衛省 
協賛 : 防衛大学校同窓会 防衛大学校学術・教育振興会

朝鮮半島について -6者会議の効用と限界

教授 倉田 秀也
(人文社会科学群国際関係学科)
略歴
1985年 慶應義塾大学法学部政治学科卒業  
1986~87年 延世大学校社会科学大学院留学
1988年 慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程修了
  1995年 慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了 
      日本国際問題研究所、
杏林大学総合政策学部助教授・教授を経て 
2008年 防衛大学校人文社会学群国際関係学科教授 

講義概要

                            <講演案内のパンフレット>
 北朝鮮の核開発問題をめぐっては、6者会談という多国間協議でその解決が試みられている。これが北朝鮮の非核化をもたらせれば、6者会談は北東アジア地域で初めて成功した多国間協議となる。そしてそれは、北朝鮮の核開発問題だけでなく、この地域の安全保障問題全般を扱う協議体となるであろう。

 しかし、今日までの6者会談は当初意図された成果を生んでいるとは言い難い。確かに、2005年9月には初の合意文書である共同声明が採択されたが、北朝鮮はその後もプルトニュームの蓄積を続け、2006年10月には核実験を強行した。見方を変えれば、6者会談は北朝鮮に核開発の時間的余裕を与えてしまったといえるかもしれない。

 北朝鮮の核実験に対しては国連安保理が制裁決議を採択したが、6者会談の枠組みはその後も維持され、2007年2月には、重油支援、テロ支援国リストの除外など、融和的措置を盛り込んだ「2.13合意」が発表された。現在のところ、北朝鮮を含んで6者会談から離脱する動きはみられない。6者会談を維持させている組織的な強靭性はどこにあり、その限界がどこにあるかを考えてみる。

                           <防衛協会会報から講演要旨>

北朝鮮は02年に高濃縮ウランを持っている疑いが持たれた。 IAEAは安保理に報告したが、利害を共有する米中の懸念から公式審議をしなかった。

 その代わり、米中朝の3者会談を03年に開催。その後、周辺国も加えた6者会談に拡大した。

 ペリー元米国防長官が北朝鮮にどう対処するかで
 ① あるべき北朝鮮(人権や民主化で体制転換) 
 ② あるがままの北朝鮮(現体制のまま核放棄だけ求める)
の2案を提示した。

①の「普遍的アプローチ」は、核に関しては「完全で検証可能な不可逆的な核解体」(CVID)する「懲罰的」な非核化概念。
  ②の「地域的アプローチ」は安全を保証して漸進的非核化を目指すもの。

北朝鮮は、米国の核脅威があるから対抗手段として核を持たざるを得ないと主張してきた。 逆手にとって、米朝関係が交戦状態でない状況を作ってやれば、「核を持つ理由はありませんね」と言える。 それでも、北朝鮮が核開発に固執すれば、安保理へ移し集団的関与と集団的圧力を加える外はない。

従来、全ての核の放棄を要求したので会談が進まず、核の放棄のための6者会談でありながら、核開発期間を与えてしまった。そこで、米国務省は核を放棄するような北朝鮮ではないと見て、北が生き残りやすいような環境をつくる②の地域的アプローチをとるようにした。

北の核実験が成功であったか失敗であったかに関りなく、能力を持っていることが分かった。1発は実験したが、2、3発と精度を高めていくよりは今のままで凍結、無能力化する方が良いという考えに立っている。

6者会談は北朝鮮に地域取り決めを作ってやる、即ち北に関与する場作り。 代わる仕組みがないし、6者会談なしには日朝の交渉は進まないだろう。 北は核を持っているが、核を持ったまま崩壊した場合の危険性は現在の金正日体制下よりも大きいだろう。

                             <講師配布の講演レジメ>
1 はじめに -6者会談の二つの効用
(1) NTP/IAEA体制と国連安保理 - 不拡散義務に対する集団的制裁のメカニズム
  ・ 北朝鮮の高濃縮ウラン計画の発覚 - 北朝鮮の不拡散公約の違反
  ・ IAEA報告と国連安保理審議回避 - 米中の結託
(2)地域的集団安全保障協議としての6者会談
  ・ 米朝中3者会談から6者会談へ - 国連安保理の地域的代替え
  ・地域的措置と普遍的不拡散基準 - 「集団的関与」と「集団的圧力」

2 ブッシュ政権の対応 - 「あるべき北朝鮮」と「あるがままの北朝鮮」
(1)「普遍的アプローチ」 - 「ネオ・コン」の影響力
  ・ 「9.11」と「バクダッド効果」 - 「あるべき北朝鮮」の模索
    - 「体制転換」/「体制変革」の主張
  ・「完全で検証可能で不可逆的な核解体(CVID) - 「懲罰的」非核化概念
  ・6者会談以外での米朝2国間協議の拒絶
(2)「地域的アプローチ」 - 北朝鮮への「安全の保障」
  ・ 漸進的非核化 - 「あるがままの北朝鮮」からの出発
  ・ 地域的「安全の保障」 - 朝鮮半島固有の安全保障取り決め
    - 米朝国交正常化/日朝国交正常化/平和体制樹立
 3 核実験とCVIDの後退 - 高濃縮ウラン計画とプルトニューム計画の比重
(1)6者会談の「逆機能」 - 核兵器開発のための時間的猶予
  ・ 高濃縮ウラン計画の秘匿性とプルトニューム関連施設の「凍結」解除
    - 兵器級プルトニウムの蓄積
  ・ 「地域的アプローチ」の優先 - 6者協議共同声明(05年9月19日)
    - 「核兵器と現存する各計画の放棄」
    - 触媒としての6者会談:2国間文書の再確認
    - 北朝鮮の内部変革への言及なし
    - 「直接の当事者」による「適当な別のフォーラム」 → 4者会談の再開
(2)北朝鮮の核実験 - 金融制裁への反発
  ・ 「普遍的アプローチ」 - 北朝鮮人権法と金融制裁の発動
  ・ 国連安保理決議1718と地域的措置 - 「集団的圧力」機能の喪失
  ・ 核実験継続の懸念 - 国連安保理1718の限界
  ・ 6者会談の続行 - 国連安保理決議との「捻じれ」

4 核保有した北朝鮮の現実認識 - 米国の政策変換
(1)「集団的関与」の文書化 - 「2・13合意」(2007年2月13日)
  ・ 米朝ベルリン協議(2007年1月) → 第5回6者会談第3セッション
  ・ 「2・13合意」 - 「共同声明履行のための初期段階措置」
    - 核施設「閉鎖」と「無力化」の概念/多国間の重油支援
    - 「テロ支援国家リスト」からの除外/敵国通商法の適用停止
    - IAEA要員の監視/平和体制樹立
(2)「第2段階措置」の発表(2007年10月3日) - 緩やかなsequenceの設定
  ・ 「無能力化」の対象と方法論 - 「国際基準」と米朝主軸化の併記
  ・ 検証なき核申告 - 検証議定書の「先送り」
    - 5MW実験炉運転記録の提出/申告書の提出
    - 「テロ支援リスト」からの除外/敵国通商法適用終了の発表

5 おわりに - オバマ政権と6者会談の今後
(1)6者会談の二つの方向性 - 核不拡散レジュームへの復帰と地域の「安全の保障」
  ・ 北朝鮮のNPT/IAEAへの段階的復帰
  ・ 北東アジアの多国間安保体制の構築 - 要諦としての平和体制樹立
(2)オバマ政権の対北朝鮮政策 - クリントン政権の対北朝鮮政策への回帰
  ・ 6者会談の温存 - 対中エンゲージメントの継続
  ・ 米朝2国間協議、6者会談の場外化 - 「地域的アプローチ」の比重
(3)麻生政権の課題 - 独自制裁との整合化
  ・ 拉致問題と6者会談構成国としての「応分の責任」
  ・ IAEAの活動に対する資金協力?
 
朝鮮半島の軍事情勢について ー北朝鮮の軍事政策と半島をめぐる情勢

教授 吉田 真
(防衛学教育学群
安全保障・危機管理教育センター)
略歴
1980年 防衛大学校卒業  
1993年 筑波大学経営政策科学研究科修士課程卒業  
2007年防衛大学校教授

講義概要
 
                            <講演案内のパンフレット>

 北朝鮮の軍事態勢からは「赤化統一」という国家目標の維持が読み取れる。そうした態勢であるがゆえに、北朝鮮にとっての攻撃遂行のための好ましい環境にないにも関わらず、隣接国は、政治的な不安要因が高まると、北朝鮮の作戦の推進に備える必要性を高める。
 
 現環境下で第2次動乱が生起すれば、それ自体は短期的なものになることが予想されるが、その際の中国の対応がその後の半島情勢の上に大きな影響を与えることになろう。

                         <防衛協会会報から講演要旨>

 朝鮮労働党規約は前文で「最終目的は全社会の主体思想化と共産主義社会を建設すること」を明記。 この為、先軍統治で長期的な南侵戦争を行い共産化による統一を軍事政策としている。

 韓国や米軍との関係で時期が整ったときは、武力統一も躊躇しない。 また、脅迫による協議戦術で対南赤化統一の土台構築を狙っている。

 人民軍の70%は軍事境界線付近に前進配備している。 しかし、殆どは1、2世代の装備で、スホイ-25、ミグ-27などの3、4世代機は少なく、継戦能力は低い。

 従って、12万人いる特殊部隊などによる事前の破壊工作や陽動作戦、韓国人口の1/5、1000万人が住むソウルへのミサイル発射と砲火、南進と、国土防衛による体制維持を作戦方針としている。

 また、韓国は「国防改革2020」で68万人態勢から50万へ移行、ネットワーク中心かつユビキタス国防情報環境を作為して21世紀の先進精鋭強軍化を目指している。

 また、在韓米軍の再配置が行われており、前方重視展開の43基地から中後方16基地に縮小、兵員は約1万人減の28500人規模となる。 同時に戦時作戦統制権が20124月、米軍から韓国へ移管される。

 北朝鮮にとっての中国は、1961年締結の中朝友好協力相互援助条約で「武力攻撃を受け戦争状態に陥った際には、直ちに全力を挙げて軍事及びその他の援助を与える」ことになっている。 しかし、警戒の対象でもあり、清朝時代は日本を以って、朝鮮戦争時はソ連を以って、今日は米国を以って中国を牽制するなど、大国を天秤に掛ける外交を行ってきた。

 中国が国際社会との摩擦を低く抑えることに成功しても、檀君建国神話や東北地方の高句麗・渤海に関る歴史問題などで朝鮮の民族主義との衝突も予想される。
 
                           <講師配布の講演レジメ>

Ⅰ 北朝鮮の軍事政策と態勢
1 朝鮮労働党規約前文
  朝鮮労働党の当面の目的は、共和国来た半部における社会主義の完全な勝利をなし遂げ、全国的範囲における民族解放と人民民主主義の革命課業を完遂することにあり、最終目的は、全社会の主体思想化と共産主義社会を建設することにある。

2 軍事政策
  ①革命武力を具備して対南優位の軍事力を維持、②「先軍統治」という軍事重視の政策(内部統制と対外脅迫)、③長期的に南侵戦争を実施 → 共産化統一(国家目標)
(1)三大革命力量論
  軍事政策の具現のために北朝鮮国内に革命勢力を構築するとともに、韓国内で同調する革命勢力を獲得する。
(2)三大革命力量論による政策
 ア 国防における自衛政策(北朝鮮社会主義力量)
    韓国国内で決定的な時期が整ったとき又は在韓米軍の撤収と自動介入の可能性が排除されたときに、中ロの支援がなくても武力統一を躊躇しないという「戦争準備政策」である。
 イ 決定的な時期作為政策(南朝鮮社会主義革命力量)
   決定的な時期とは、革命の条件がすべて整ったと判断される革命の成熟期又は武力赤化のチャンスをいう。
 ウ 軍事外交政策(世界社会主義革命力量)
   「脅迫を通じた協議」(negotiation through threat)戦術を追及している。軍事力の増強を通じて、協議における発言力を強め、生存、対南赤化統一の土台構築を狙う。
(3)金正日の基本路線:「体制維持」、「対南赤化統一」、「国際社会における生存」

3 人民軍の特徴と態勢
  国内総生産(GDP)の20%から30%を軍事費に充てながらも、ミサイルなどの武器輸出や独自的な外貨稼ぎを通じて、軍事費を拡充。
(1)戦力配置も軍事境界線付近に60%から70%を前進配備
(2)旧式、継戦能力低、数の優位
(3)経海・トンネル浸透など、非正規的な戦略戦術を駆使。12万人の特殊部隊
(4)ミサイル・弾頭の開発・保有

4 特徴と態勢からみた北朝鮮の作戦方針
  事前醸成→破壊工作・陽動→ミサイル発射・ソウルへの砲火→南進(4個軍団の戦闘、ソウル包囲、TK&機械化軍団×2の南進、更に機械化軍団×2の南進)→国土防衛(機雷、4個軍団、司令部)→体制維持

Ⅱ 韓国の「国防改革2020」(21世紀の先進精鋭強軍化)
1 68.1万人 → 50万人(陸:37.1 海:6.4 空:6.5)

2 ネットワーク中心、ユビキタス国防情報環境

3 陸軍:第1、3軍司令部→地上作戦司令部、1個機動軍団、後方作戦司令部
  「軍事境界線の東正面に第1軍、西正面に第3軍。第7軍団は、機械化軍団で、担任地域を持たない機動打撃部隊として拘置。第2軍は、「第2作戦司令部」に改編()2007年11月1日

4 海軍:作戦司令部下3個戦域艦隊、潜水艦船団、航空船団、機動戦団
  ・ 対象戦略(相手国の戦力構造と同等水準の規模):6隻の大型戦闘艦艇と6機の多目的ヘリコプターを装備する韓国型大洋艦隊1.5個を建設。済州島に大型艦接岸設備建設。
  ・ 非対称戦略(特別な軍事力):主力は、潜水艦。現在、9隻のチャンボゴ級潜水艦に続き、214級潜水艦を9隻建造中であり、2015年初頭からは戦略的な作戦が可能なSSX(次期中型潜水艦)を建造。

5 海兵隊:第1海兵師団(上陸用部隊)と第2海兵師団(支援部隊)
 「海兵隊ビジョン2025」:機動・攻撃ヘリコプターの運用。約2,000人の旅団級の規模。
 3、4隻の大型揚陸艦。→」2015年以降には、韓国海軍遠征軍が誕生すると予測。

6 空軍:半島全域の優勢・精密打撃。「北部戦闘司令部」創設。High-Low-Mix20機。空中給油、早期警戒。[航空機数:戦闘機500機、特殊機約80機(海軍ヘリコプターを含む。)及び支援機約190機を保有している。]

Ⅲ 韓米(連合軍)の枠組み
1 米韓相互防衛条約(1953年10月1日ワシントンにて署名、1954年11月18日発行(条約第34号))
  ①条約の義務は勧告を害する「外部の侵略」に限って発生すると規定(第2条)。②共通の地域危機対処:各国の「憲法に定めた手続き」による(第3条)。

2 在韓米軍基地再配置
  全国に点在 43個基地(241.9k㎡) ⇒ 2個の戦略拠点(83.1k㎡)  配置図:省略

3 戦時作戦統制権移管に伴う事項
  1950年7月の書簡。1954年11月「韓米協約調印に関する共同声明」。1978年11月の処置。1994年12月の平時分の移管。2006年10月20日に開催された第38回米韓安保協議会(SCM:Security Consultative Meeting)において、2009年10月15日から2012年3月15日までの間に戦時作戦統制権を移管すること、2007年上半期中に具体的な履行計画を作成することで合意、2007年2月23日に開かれた米韓国防相会談で、2012年4月17日付での移管に合意。

Ⅳ 中・朝枠組み
1 北朝鮮にとっての南進作戦上好ましい戦略環境
  ①韓国内の「革命」同行の高まり、②米韓軍事同盟の希薄化、自動参戦の信頼性の低下、在韓米軍の撤退、③後背の信頼性・支持・加担

2 「中朝友好協力相互援助条約」(1961.7.11)
  締約国は、共同で一切の措置を講じ、締約国のどちらか一方に対するいかなる国からの侵略をも防止することを保障する。締約国の一方が、ある国の、あるいは数カ国連合の武力攻撃を受け、戦争状態に陥った際には、締約国の一方は、直ちに全力を挙げて軍事及びその他の援助を与える。(第2条)

Ⅴ 北朝鮮にとっての脅威の対象としての中国
1 影響排除:延安派排除・粛清。中国義勇軍撤退要請。

2 中朝間の摩擦
(1)長白山(白頭山)天池領土要求と中国の一蹴。
(2)文化大革命時に金日成を「修正主義者」「走資派」と罵倒。金は平壌郊外に埋葬されていた朝鮮戦争時の中国人志願兵の墓(毛の息子のものを含む。)を破壊。
 * 1970年10月金が訪中し関係修復し、1971年「友好条約」10周年を控え墓も修復。
(3)1992年8月の中韓国交樹立
(4)2006年7月ミサイル発射→7月15日安保理非難決議での中国の賛成。
(5)同年10月の核実験→安保理制裁決議での中国の賛成。

3 中・朝間衝突の想定
(1)米朝関係改善と中朝関係の悪化。対朝経済援助の激減、北朝鮮の台湾接近。
(2)国境武装密輸、国境軍の小競り合いからの局部戦争
(3)民族復興意識の高まり、領土問題・歴史問題の対立。朝鮮族の独立。

Ⅵ 北朝鮮にとってのふたつのアンビバレントな中国の存在
 
 【中国は南との軍事的対峙の後背地としての後方縦深】 ・・・・ 「盟中」
   ↑ (従来からのねじれの存在) ーーーーーーーーーーーーーーーーーー→ 「用中直米」
      ↓                ーーーーーーーーーーーーーーーーーー→ 「中・米天秤」
 【中国の政治的影響強化への反発】             ・・・・ 「脱中」
  * 中国:「親朝反米」政策は難。「抑朝連米」へ

Ⅶ 半島非常時における中国
1 民族主義への考慮
2 中国にとっての地政学的意味
3 中国人の移行:必要なら軍を北朝鮮内に派遣。
   緊急時のプラン:①人道的難民支援や災害後の援助、 ②警察力による平和・秩序維持活動
             ③核や放射能物質の保全。米国との協議。
4 国境の配備:辺疆防衛隊→正規軍(2003年)
* 黄長燁(元最高人民会議議長、国際担当書記1997年亡命)のコメント
           
核燃料サイクル -核エネルギーの平和利用

教授 新川 孝男
(応用科学群応用物理学科教授)
略歴
1975年 埼玉大学理工学部物理学科卒業  
1976年 同理学専攻科修了  
1978年 東京大学大学院理学研究科物理学専攻修士課程修了  
1981年 同博士課程単位取得退学  
1981年 日本学術振興会奨励研究員  
1981年 米国ブラウン大学研究員  
1982年 理学博士  
1984年 高エネルギー物理学研究所助手 
2000年 高エネルギー加速器研究機構助教授  
2000年 防衛大学校応用科学群応用物理学科助教授
  2006年 同教授
講義概要

                         <講演案内のパンフレット>
 現在、日本には50をこえる発電用原子炉があり、電力量の30%程度を担っている。利用過程で二酸化炭素を排出しないために、地球温暖化に寄与しない自然エネルギー源として、最近改めて注目を浴びている。

 一方で、30年を超える原子炉の運転により、多量の使用済み核燃料が蓄積していることも事実である。六ヶ所村では、この使用済み核燃料を再処理して、再び核燃料として使用するために、再処理工場が始動している。

 本講座では、宇宙の進化に伴い蓄積された核エネルギーを電力として取り出し、その使用済み核燃料を再処理し、再び核燃料として利用する核燃料サイクルについて解説する。

                       <防衛協会会報から講演要旨>

原発のウラン(以下U)燃料を精製し、使用済み核燃料を再処理し再び使用するのが核燃料サイクルである。 サイクルが完成すれば、有限な核燃料物質の有効利用が可能になる。

 使用済み核燃料は燃え残りのUと核反応によって生成されたプルトニウム(以下Pu)を含む。

 再処理施設では、U及びPu等の再利用可能な物質を抽出、UとPu混合酸化物燃料(MOX燃料)を精製する。

 高レベル放射性廃棄物から生成されるガラス固化体は、半減期の長い放射性物質を含み、使用前の放射能レベルまでに数万年程度を要するので、地下深く埋設する。

 高速増殖炉はPuを燃料とし、中性子を減速せずに使用するので核燃料の一層の有効利用が期待される。

 06年核兵器保有を宣言した北朝鮮は、炭素減速材の黒鉛炉で生成した使用済み核燃料を再処理してPuを実験に使用したものと考えられる。イランはU 濃縮等の技術開発を進めているが、ウラン濃度だけでは平和利用か軍事用か単純に判別できない事情が問題の背後にある。


                         <講師配布の講演レジメ>

1 原子核と原子力
 物質は多数の原子から構成されており、その原子の中心核が原子核で、陽子と中性子が核力で強く結合している。原子核の種類は、それを構成する陽子の数である原子番号と陽子と中性子の数の和である質量数で区別される。原子核の結合の強さは、化学結合の百万倍程度と大きく、質量数による。最も安定な原子核は、質量数が60程度の鉄、ニッケル党である。質量数が235のウラン235は遅い中性子を吸収して分裂し、余剰エネルギーと2~3この中性子を放出する。中性子を減速してやると別のウラン235がその中性子を吸収して分裂する。この核分裂の連鎖により解放されるエネルギーが原子力で、日本では主に発電に利用され、全発電量の3分の1程度を担っている。

2 核燃料サイクル
 原子力発電所の原子炉において、ウランの核分裂連鎖反応により、原子力エネルギーが取り出される。そのために、ウラン燃料を精製する過程、使用後の核燃料を再処理し利用可能な物質を取り出す過程、その燃料を再び使用する過程が核燃料サイクルである。このサイクルが完成すれば、有限な核燃料物質の有効利用が可能になる。
 現在、多量の使用済み核燃料が原子力発電所において貯蔵されている。それらを処理するための再処理が青森県六ケ所村に建設され、2006年から実際に使用済み各燃料を使った試験運転がされている。

3 使用済各燃料の再処理
 各原子力発電所では、原子力の利用により年間20トン程度の使用済み核燃料が生成される。その放射能は、原子核の連鎖反応による生成物により、使用前の一億倍程度になっている。使用済み核燃料には、燃え残りのウラン及び核反応によって生成されるプルトニュウムが含まれている。使用済み核燃料は放射能が大きく発熱があるために、各発電所内の貯水槽で冷却保管されている。
 再処理施設では、使用済み核燃料からウラン及びプルトニュウム等再使用可能な物質が分離精製される。使用済み核燃料をせん断し、熱い硝酸で溶解し、その溶液から有機溶媒を使ってウランとプルトニュウム等の物質が抽出される。抽出された物質は分離精製され、ウランとプルトニュウム混合酸化物(MOX燃料)が生成される。残りの高レベル放射性廃液は、ガラス固化体としてガラスの中に閉じ込められる。

4 高レベル放射性廃棄物の地層処分
 再処理工場で、高レベル放射性廃棄物から生成されるガラス固化体は、半減期の長い放射性物質を含むために、使用前の放射能レベルにもどるまでに数万年程度を要するので、その期間地下深く埋めて地上近くの人間活動から隔離する必要がある。ガラス固化体はステンレス容器に入れられ、それ自体の放射能及び放射線の発生する熱に対して十分安定で1000年以上に渡り放射性物質を閉じ込めることができる。現在、埋設処理地が公募中であるが、さまざまな安全性に関する調査を経て選定される。50年程度かけてガラス固化体が300m以深に埋設され、処分地が埋め戻される。
その後300年程度、土地利用等に関して監視が続けられる。1000年以上を経て、放射性物質がガラス固化体から漏れ出すことが考えられるが、数万年以上に渡り300mの地層が人間環境との障壁となり得ると考えられている。安全性についてのあらゆる見当が進められている。

5 高速増殖炉
 高速増殖炉はプルトニュウムを燃料とし、中性子を減速せず高速のまま使用することにより、各燃料のさらに有効な利用ができると期待されている将来の原子炉である。プルトニュウムの連鎖反応による余剰の中性子を使って、燃料にならないウランから燃料として利用可能なプルトニュウムを生成し、ウランの利用効率を上げる。中性子を減速させないために、原子炉の冷却材として液体状の金属ナトリウムを使用しているために、軽水炉以上に高度な技術が必要とされる。日本では、1977年から実験炉「常陽」が運転している。原型炉「もんじゅ」は、1995年にナトリウム漏洩事故を起こし、現在改修が進められている。

6 北朝鮮、イラク核問題
 北朝鮮は、2006年に核兵器の保有を宣言し、地下核実験を実施したとみられている。これは、中性子の減速財として水に代わり炭素(黒鉛)を使用した黒鉛炉で生成された使用済み核燃料を再処理して、核兵器の原料となるプルトニュウムを取り出し実験に使用したものと考えられる。現在六カ国会議により、北朝鮮の非核化への取り組みが進められている。
 イランは、平和利用目的としてウラン濃縮等の核技術開発を進めている。これに対して、欧米各国はそれが軍事利用目的であるとして制裁を強めている。黒鉛炉あるいは重水炉では天然ウラン(ウラン235の濃度が0,7%)が使用可能であるが、発電用に使われている軽水炉の燃料は、ウランの濃度を3~3%
に濃縮する必要がある。兵器用のウランは、ウラン235の濃度を90%程度にまで濃縮する必要がある。そのため、ウラン濃縮だけでは、それが平和利用なのか軍事用なのか単純には判別できない事情が問題の背後にある、

第14回現代の安全保障講座 (平成19年11月27日)


 
当協会は1127日、グランドヒル市ヶ谷(東京都新宿区)において、防衛大学校教授3人を講師に、安全保障講座を開催した。

本講座は平成6年から開催しており、今回は14回目。

現下、国際的に動向が注目されている中国を統一テーマに取り上げたこともあり、聴講申し込みが殺到した。

                                【 講座内容】 

 ● 中国の国家戦略について   教 授  村 井 友 秀

 ● 中国の軍事戦略について   准教授  川 中 敬 一

 ● 弾道ミサイルについて    教 授  田 中 雅 文

挨拶       ”防大は今”     五百頭 眞校長
「防大」は今!

創立以来55年経過し、記念講堂等も加わり順次新しくなっている。かつての図書館は資料館となり、この一角に槇校長記念館の併設が進んでいる。

これは、世界中を東奔西走するようになってきた自衛隊に「精神の拠点」を提供するためである。

 防大(卒業)生はノーブレス・オブリージュとして、この記念館で初代校長と語り合いながら、マキイズムとして定着している創設以来の豊かな人間性、科学的・合理的な思考力、国際的視野を一層確かなものに築いていって欲しい。

教育体系も創立以来大きくは変わっていないが、時代の要請で語学と異なる世界を内側から見る素養の必要性が高くなっており、地域専門家を充実している。

また、防衛学教育学群の中に安全保障危機管理センターを新設した。総合安全保障研究科には未だ博士課程がないが、流動化する時代、高度化する社会の中で求められるものは、マキイズムを継承しつつ国家戦略を担う人材の育成である。

更に、民主主義時代にあっては、国民とともに歩むことが大切で、防大は昨年からキャンパス・ツアーを実施している。

 また、9・1防災の日には三浦半島に震度7の地震が発生したという想定で、周辺地域の被災者救出訓練を実施し、地域との一体化も図っている。

   
挨拶中の五百旗頭防衛大学校長                            受講風景       
中国を顕彰する
村井 友秀 教授 中国の国家戦略について
 1981年 東京大学大学院国際関係論博士課程満期退学     
 1993年 防衛大学校教授
 1995年 同国際関係学科長
 2005年 同人文社会科学群長
 2007年 同図書館長
講義概要

                  -東アジアの平和と戦争-

 中国の国家戦略というのは、中国共産党の行動パターンです。過去と現在のベクトルの延長線上に未来の「動く方向」を考えてみたい。

 政府は強制と国民の同意で成り立っています。強制には軍隊や警察などの力が必要ですが、国民の同意による政府の方が強靭であり、これが政府の正統性となります。

 政府の正統性は民族主義、経済発展及び民主主義のいずれかで得られます。最近発表された中国政府の白書では「議会制民主主義をとらない」と明言していますので、中国は民主主義国家でなく共産党の独裁国家です。

他方、この20年間、10%の経済成長を維持して、GDPは4~6倍に、個人所得も300ドルから1500ドルになり、世界でも驚異的な発展を遂げてきました。これは十分に正統性となります。

また、中国共産党は上海での結党以来、抗日民族統一戦線をスローガンに掲げたのに対し、国民党は安内攘外で内部の共産党をまず潰して安全を確保し、その後に日本軍を排斥する政策を取りました。国民党軍は日本軍に負けっぱなしで、その間に共産党はどんどん勢力を伸ばし領土も拡張をしました。民族主義も共産党の正統性に根拠を与えます。

 経済発展には平和が望ましいが、民族主義には対外関係が緊張した方がよい。中国はどちらにするか合理的に判断する国です。

日本はこのことをよく頭に入れて中国と付き合うことが大切です。軍事的行動が安く付くとみれば、中国はそうするだろうから、日本は日中友好を話し合いと恫喝に屈しない軍事(国防)力のバックアップの上で進める必要があります。

講義内容(レジメ)

1 政府と正当性
 
 政府と国民の関係は、政府による強制と国民の同意によって成り立っている。強制力に頼ることなく国民の同意によって成立している政府は強靭である。国民の同意を政権の正当性と呼ぶ。
 どのような政府も政策の基本は政権の維持・強化である。したがって、独裁政権であろうと民主主義政権であろうといかなる政府も国民の同意を得るような政策を採る傾向がある。
 国民は、民族主義、経済発展、民主主義を実現する政府に同意する。正当性とは、民族主義、経済発展、民主主義である。
 各国の政府はそれぞれ異なる正当性を持っている。各国政府の政策を予測することが出来る。

2 戦争の条件

 政府が戦争を決定するケースは3つある。 ① 侵略に対する自衛戦争、 ② Deadlock、 ③ 戦争によって支払うコストよりも戦争によって得られる利益が大きい場合である。
 戦争に勝つとは、損害が耐えられる限界を超える前に戦争目的が達成されることであり、戦争に負けるとは、戦争目的を達成する前に損害が耐えられる限界を超えることである。
 冷戦後の戦争は、民族主義(民族自決)の戦いである。民族とは歴史的運命共同体である。
 経済的相互依存が深化した現代において戦争は関係各国の経済に大きな打撃を与える。しかし、民族の本質は感情であり、無限の価値を持つものであってコスト計算することは出来ない。

3 東アジア各国政府の正当性と戦争
中国 北朝鮮 韓国
民族主義 ×△○ ×
経済発展 ×
民主主義 × ×

川中 敬一 准教授 中国の軍事戦略について
 1982年 防衛大学校卒(機会工学科
 2006年 杏林大学大学院博士後期課程卒(学術博士)
 2007年 防衛大学校准教授
講義概要

          - 毛 沢 東 軍 事 戦 略 に 依 拠 す る 中 国 軍 事 戦 略 -

中国では、「戦争は血を流す政治」という毛沢東思想が生きており、軍事力は党の政策決定を忠実に実現するための有効な手段である。

 中国共産党の究極目標は、米国の一国支配と発展途上国への干渉に反対し、公正で合理的な政治・経済・貿易システムの「世界政治経済新秩序」を打ち立てることである。

 中国の軍事戦略に関する最近の傾向は、各領域の闘争と密接な調和を堅持し、各種手段と策略を総合運用して、危機を主導的に予防、溶解し、衝突と戦争の勃発を抑止する「ハイテク条件下の人民戦争戦略」を強調している。

 この観点から予想される中国の軍事戦略の方向は①ハイテク化した正規部隊とハイテク条件に適合した人民戦争の“二本足路線”で、②2010年までに、今後50年にわたる軍事戦略の骨格や装備・編成・教育の方向を打ちたて、③2020年までに周辺国一国との衝突で勝利を得(米国の直接介入がなければ台湾を武力統一)、④21世紀中葉までに情報化戦争で勝利することであろう。

解放軍の最高学府である国防大学等に於ける若手軍事理論家たちの戦争・軍事に対する基本認識は、信頼醸成措置や国際平和維持活動、国際人道援助活動、対テロ活動等の非戦争軍事行動は、戦争行動に従属し補充するものでしかないし、これらは戦争準備のための活動で、国益に適合するかどうかで決定されるとしている。また、戦争能力を具備してこそ、抑止や軍備管理、兵力削減等は実効性を持つとしている。

以上のことから、日本は自己を過大視せず、中国の政治戦略上に位置づけられた軍事戦略を認識する必要がある。すなわち、政治課題解決に軍事力を容易に使用することを忘れないようにすることが大切です。


講義内容(レジメ)

1 中国における党(政治)と軍事の関係

 ◆ 「戦争は血を流す政治であり、政治は血を流さない戦争である。」
 ◆ 「党が鉄砲を指揮するのであって、鉄砲が党を指揮することを決して許さない。」
  ⇒ 軍事力は、党の政策を忠実に実現するための友好な手段
                            ↓
    ◎ 中国の軍事力(解放軍、武警、民兵等)は、国軍である以前に”党軍”
   ※ 政治と軍事との密接な連携
    → 過去の対外武力行使発動に際する政治最高指導者と戦役指揮官との綿密な意思疎通努力
     ① 軍事行動が政治プログラムに忠実に従事(政治色濃厚な軍事行動)
       ※ 政治要求に従った作戦行動
     ② 政治課題解決に軍事力を容易に使用(軍事力使用の”敷居”が低い)
       ※ 建国後、9回以上の対外武力行使
                            ↓
     ☆ 中国の軍事戦略 = 中国共産党の政治プログラムから導出(濃厚に反映)

2 中国共産党の究極的目標

 ◆ 「世界政治経済新秩序」を打ち立てること
  : 覇権主義と強権政治(米国の一国世界支配と干渉行動)に反対することを前提として、先進国(欧米日)との
    経済・技術不平等を打破し、(中国等途上国にとって)公正で合理的な政治・経済・貿易システム。
    (中共中央党校文献) 
    ⇒ 中期的には台湾を統一し、究極的には中国が自由に活動できる地球
                             ↓
      ◎ 将来、いつの日か米国との軍事衝突を覚悟した国防力の建設
    ※ 米国の軍事衝突を回避するにしても、米国の軍事行動を抑制する実力は必須
    【究極目的の微妙な変化】
    ① 毛沢東時代   :生存と尊厳の確保
    ② 鄧小平時代以降:”中華民族”の振興 → 復興 → ?飛躍・跳躍?

3 中国共産党の政治路線の変遷と国防路線との関係

   - 国防建設が中心課題
    ※ ”核兵器システム”構築と通常戦力近代化との比重に関する論争
    ① 朝鮮戦争(1950~1953)と第1次五ヵ年計画(1953~1956) 
      → 解放軍の近代化・正規化 
       ※ ソ連軍型近代正規軍化
    ② 大躍進(1958~1961)
      → 核兵器製造・保有優先(1955.1核保有決定)
       ※ 核開発成功までは、野戦軍と民兵(人民公社)で対処
    ③ 経済調整(1962~1965)
      → 解放軍近代化のための資金・技術獲得(劉少奇、鄧小平、羅瑞卿)
       ※ ソ連の再依存模索
    ④ 文化大革命(1965~1976)
      → 核保有優先か通常兵力優先かの国防路線論争
       ※ 核(水爆)、宇宙(衛星)、海軍(原潜、大型駆逐艦) = 最小限核反撃システム
    ⑤ 改革・開放(1979~)
      → 解放軍近代化に必要な資金・技術の確保
       ※ 欧米型軍隊への脱皮
   ⇒ ハイテク戦争条件下の人民戦争に対処できる軍事力構築

4 中国軍事戦略に関する最近の傾向

 - 「ハイテク化条件下の人民戦争戦略」を強調
  ※ 中国の国防: 国家の安全な統一を維持保護し、小康社会の全面的建設という目標の重要な保障を
               確保すること。(2006年 中国の国防)
   ◆ 国防大学、軍事科学院等の若手軍事理論家の見解
    ① 基本的軍事戦略
     - 積極的防御(戦役・戦術上の侵攻、戦略的侵攻をも包含する)を貫徹する。
      → 情報化条件下の局地戦に勝利することに立脚し、国家主権、安全と発展という利益の需要を
        維持保護することに着目し、軍事闘争準備をしっかりする。
    ② 戦争・軍事に対する基本認識
     - 社会変化、技術発展によっても、戦争の”暴力性は普遍”
       ・ 非戦争軍事行動(信頼情勢措置、国際平和維持活動、国際人道援助活動、対テロ活動等)は、
        戦争行動に「従属」し、「補充」するものでしかない。
       ・ 非戦争軍事行動は、戦争準備のための活動である。
       ・ 非戦争軍事行動は、中国の国益に適合するか否かで決定される。
       ・ 戦争能力を具備してこそ、抑止、軍備管理、兵力削減等は実効性を持つ。
                             ↓
        ◎ 軍事活動のいわゆる”非軍事化”なるものは、最大限の誤解である!
                              (軍事科学院戦争理論・戦略研究部)
    ③ 何が戦争の対象であるか?
      ・ 国際政治経済新秩序における敵対対象は、「覇権主義・強健政治」
                              ↓
        ☆ 最終的な対象は米軍の軍事力(米国の軍事動静への深い関心・研究)
      ・ 中国統一(台湾統一、辺彊維持等)の阻止を画策する国家・集団
                               ↓
        ☆ 米国と”中国脅威論”を喧伝する少数の国家(=日本も?)、テロ組織
      ・ 周辺の複雑かつ敏感な歴史的そして現実的問題(2006年 中国の国防)
                               ↓
        ☆ 中国周辺の領土・影響力に関わる問題の解決
    ④ 「ハイテク条件下の人民戦争」とは?
     - 「新機軸の発展した人民戦争の戦略思想は、軍事闘争と政治、経済、外交、文化、法律等領域の
       闘争との密接な調和を堅持し、各種手段と策略を総合運用し、危機を主導的に予防、溶解し、衝突
       と戦争の勃発を抑止する」こと。(『2006年 国防白書」)
       ※ 「動員」問題と密接に関連。動員には、情報技術従事者、海事・空事従事者の軍事的動員を
         対象としている。
       ※ 「各種手段の総合運用」とは、”統一戦線工作”に連接する概念。
    ⑤ 質と規模との関係は? 
      ・ 江沢民: 私の私見によれば、規模はいまだ大きすぎ、更に一歩進んで圧縮することはできる。
               ・・・・ (党内で合意が得られなかった証左)
      ・ 空軍幹部: 欧米強国空軍と主要作戦の相手の空軍に比較して、わが国空軍の装備的水準は
              比較的低いので、作戦上の要求と戦闘力水準を均衡させるためには、空軍もまた相応
              の規模を保持することが求められる。
               ・・・・ (技術格差を埋めるためには一定以上の兵力量保有が必要)
                                ↓
         ☆ 一定技術水準を具備した大規模兵力を今後も維持(海・空軍は増加傾向))
           ※ 航空・海上兵力は、世界政治経済新秩序実現に必要な量を整備?

5 予想される中国の軍事戦略の方向

 ◆ ハイテク化した正規部隊とハイテク条件に適合した人民戦線との”二本足路線”
 ◆ 2010年までに比較的大きな発展を達成
  → 2020年前後までに比較的大きな発展を達成
  → 21世紀中葉までに情報化された軍隊の建設を実現し、情報化戦争で勝利する。
  【各軍種の戦略方向】(『中国の国防』『解放軍報)等)
   - 独自の宇宙戦力を活用した「連合戦略」を基本、兵力規模は増加?
   ★ 米国・西欧諸国との軍事技術格差は逆転しないとの前提認識
    → 毛沢東軍事思想の前提と同一  (自己を弱者に位置付けることから出発)
     ※ 「毛沢東の戦略に関する著作の論断は時代遅れではない」(軍事科学院戦争理論・戦略研究部)
   ・ 陸  軍 : ① 機動力と打撃力増強
            ② 空地一体の遠距離兵力投入能力(空中機動力)
            ③ 特殊作戦能力増強
    → 国内・周辺地域への迅速な展開(米陸軍を雛形とした部隊)
   ・ 海  軍 : ① 近海防御の戦略的縦深増大(艦隊行動能力の向上)
            ② 海上総合作戦能力向上(各種戦・洋上補給能力の均衡した向上)
            ③ 核反撃能力向上(SSBN/SLBMの能力向上)
    → 敵海軍侵攻を遠方海域で阻止 + 対敵核報復力信頼性向上(SSBNパト常態化)
            ※ 航空母艦保有は視野に入れている程度(状況により実現)?
   ・ 空  軍 : ① 攻防能力兼備型への転換(戦略爆撃能力の獲得)
            ② 防空能力(SAMと弾道弾対処)向上
            ③ 警戒偵察能力向上(AWACS、偵察衛星、無人偵察機等)
            ④ 戦略的遠距離空輸能力向上
    → 周辺地域政・経中枢、軍事拠点攻撃能力(長距離爆撃機と巡航ミサイル)
   ・ 第2砲兵 : ① 核即応能力の維持
            ② 射程・破壊力・精度・抗堪性向上
    → 陸上発射基地の地下建設化 + 中国式MD
  【ハイテク条件化の人民戦争】
     ★ 党が国家の全機能を動員することが可能な社会制度
                         ↓
   ・ ハイテク業務従事者を民兵として動員(サイバー攻撃の主力?)
   ・ 民兵による正規部隊移動・輸送任務担当(軍民兼用)
   ・ マスメディア従事者を民兵として動員(文化統一戦線(宣伝・心理戦)を担当)
   ・ 民兵による目標位置通報・機雷敷設・海上輸送担当(第二海軍、海上民兵訓練)
   ・ 武装警察による非戦闘地域の治安維持(正規部隊の戦闘力を集中)
   ・ 民兵による医療活動負担
  【米国の活動を包囲・牽制する総合的戦略活動】
   ・ 南太平洋から中南米への影響力増大(太平洋島嶼国家軍幹部教育)
   ・ 西部大開発による残存性向上
      (パキスタン、ミャンマーとチベット、新彊との連結による資源確保・第二生産地域建設)  
   ・ ドル・ユーロの積極的買占め(米・EUに対する経済的恫喝力増大)

6 コメント(今後の注目点)
 ① 軍事戦略は、中国共産党の政治戦略目的達成のための一手段(重要ではあるが)
   ※ 政治戦略上のプログラムに注目する必要。
 ② 装備や兵力量への過度な着目は、全体の方向性を見誤る危険性。
   ※ 現在は試行錯誤の段階?決定すれば短期間で大量調達・配備?
 ③ 中国の軍事戦略は、極めて現実的で柔軟で常識的である事実。
   ※ 毛沢東軍事思想が”戦略的思考の基盤”であり続ける理由。
 ④ 日本は、中国の政治戦略上の如何なる位置付けにあるか認識する必要性。
   ※ 日本は自己を過大視することは禁物。
 ⑤ 軍事力の”暴力性の普遍”を確信する隣国が存在する事実。
   ※ 信頼醸成、軍事交流、国際貢献等における自覚的な取り組みが必要。
                             ↓
     ☆ 中国にまつわる歴史を再度確認することが、日本の安全と尊厳保持の第一歩!
 
田中 雅文 教授 弾道ミサイルについて
 1985年 東京大学大学院工学系研究科博士課程航空工学専攻修了
       工学博士 
 1985年 防衛大学校助手
 1987年 同 講師
 1991年 同 助教授
 2001年 同 教授
講義概要


 11世紀頃、中国に始まったとされる原始的ロケット技術は、第二次世界大戦を機に急速に発展を注げ、現在、宇宙ロケットとなって人類に夢を与えると同時に、大量破壊兵器を搭載するミサイルとして脅威を与えている

 冷戦後、ミサイル技術が世界各国に拡散し、弾道ミサイルを保有する国は数十ヶ国に上ると言われている。

我が国でもこの脅威に対抗するため、弾道ミサイル防衛システムの導入が決定された。(以上、講義概要書から)

(編集者註:中国は有人衛星を打ち上げ、衛星破壊実験を行なうなど、近年、弾道ミサイル技術の応用を拡大させている。

 就中、米国東部に届くICBMやSLBMの配備は国家戦略・軍事戦略に大きな変革をもたらすと見られ、注目する必要がある)

講義内容(レジメ)

1 ロケット・ミサイルと火砲

 9世紀以前に発明された火薬の爆発的な燃焼現象を利用して11世紀頃にロケットの原型~火箭が中国で発明された。
 19世紀には英国で改良がなされ欧米の戦闘で多用されたが、同じく火薬を利用する火砲が、命中精度が高く射程も長い兵器として発達してきて、ロケットは戦場では利用されなくなった。

 しかしながら、第二次世界大戦末期にドイツで、慣性誘導で目標に到達する近代的液体ロケットV-2号として再登場した。その後、ソ連と米国に摂取されたロケット/ミサイル技術は改良を重ね、冷戦期を経て世界各国に広まった。
 火砲では火薬の燃焼圧力で弾を飛ばす。砲身内で弾を加速するため、砲内圧力を高くしなければならない。高温高圧に耐える砲身に構造上の制限があるため、射程は100kmにとどまっている。

 ロケットは火薬(推進役)を自蔵しており、燃焼室圧力が低くても飛行中の加速が可能なため速度制限はなく、射程は延びる。多段式を用いることにより、地球上のいかなる地点にも宇宙空間にも飛行が可能である。

 なお、ロケットとミサイルの違いは、ミサイルが「ロケットなどの推進装置をもつ」ものとして定義されるように、使用方法の違いのみである。

2 ミサイルの分類と誘導

 ミサイルはさまざまに分類される。
 発射母体、使用場所による分類では、地対地ミサイル(SSM)、空対地ミサイル(AS)などがある。
 射程や運用法などによる分類では、戦術ミサイル、戦略ミサイル、長距離弾道弾(LRBM)、中距離弾道弾(MRBM)、等々に分けられる。

 飛行形態による分類もあり、空気力学ミサイル(クルージングミサイル)、弾道ミサイルのように分類する。前者は空気を利用したジェットエンジンを用いて巡航飛行し、後者は加速段階でロケットエンジンを用いたのち弾道飛行するのでこの呼び名がついている。

 誘導するには、あらかじめ飛行経路を決めておく方式(慣性航法等のプログラム誘導)、順次地上より方向を指示する方式(指令誘導)、ミサイル自身が目標を追う方式(ホーミング誘導)があり、ミサイルの使用目的に応じて適切な方式がとられている。

3 推力の発生

 弾道ミサイルではロケットエンジンを用いる。ロケットエンジンは酸化剤と燃料を燃焼室にて燃焼させ、その燃焼ガスをノズルで広報に勢いよく燃焼させることにより前方への推力を得る。

 推力の源となる酸化剤と燃料を推進薬(推進剤)と呼ぶ。ロケットに積まれている推進薬が液体状態であれば液体ロケットエンジン、固体状態であれば固体ロケットモータと称される。

 噴射ガスの速度を高くし推進性能を向上させるには、燃焼室圧力を高くすること、燃焼ガス温度を高くすること、燃焼ガス分子量を低くすること、が効果的である。

 液体ロケットエンジンでは高圧燃焼室に推進薬を供給する工夫が必要で、ターボポンプ式もしくはガス圧送式の供給装置が用いられる。これに対し固体ロケットモータでは推進薬が燃焼室内に直填されており、燃焼することで燃焼ガスが自動的に供給される。

 液体ロケットエンジンでは推力の大きさ調節が順次可能なのに対し、固体ロケットモータは作動中に作動中に推力の大きさを自由に変えることができない。推力の方向を変えることができるだけであるが、衝突破壊の目的にはこれで十分である。

 ロケットを大型にするには液体ロケットエンジンではターボポンプ式が用いられるが、高性能の小型ターボポンプを実現させるには高い設計技術が必要である。

 固体ロケットモータの大型化にも固体推進薬の高度な製造技術(特に合成化学技術)が必須である。大型の固体ロケットモータを有する国は、現在のところ、数カ国に限られる。

4 推進薬

 液体推進薬には、酸化剤として液体酸素、燃料として炭化水素系燃料もしくは液体水素が使われることが多い。

 液体酸素、液体水素は沸点が極めて低いので、ミサイル内で長期間貯蔵することはできない。硝酸系酸化剤とヒドラジン系燃料の組合せは、それぞれの毒性が高いものの常温で貯蔵可能である。両者が接触するだけで点火してくれるので天火器が要らず、多くのミサイルに使用されているが、硝酸系は腐食性が高く品質劣化しやすいのでこれまた飛翔体内に長期間保存できない。

 固体推進薬は液体推進薬は液体推進薬よりも性能面でやや劣るものの、固体ロケットでの長期保存及び即時発射で可能で、輸送に対しても安全である。

5 ミサイル技術拡散と防衛

 飛翔体に初期速度を与え弾道飛行させることは、射程が短距離で命中精度を問わなければ、比較的容易な技術といえる。 

 現在、弾道ミサイルを保有する国は数十に上るといわれている。高度な技術によって洗練され、大量破壊可能な弾頭を搭載し、高命中精度を持つミサイルは他国への大いなる脅威である。

 飛来するミサイルを迎撃し、無力化する手段として我が国でも弾道ミサイル防衛システムが構築されつつある。

 ある技術脅威に対し、それを上回る技術で対抗することは、防衛面で非常に重要である。さらにミサイル技術がさまざまな複合技術から成立していることを考えると、その根幹技術または製造要素を政治的に輸出規制等で抑えたりすることは、これまたとても有効な手段である。

 
第13回現代の安全保障講座 (平成18年11月28日)


 全国防衛協会連合会は,平成181128日、グランドヒル市ヶ谷において防衛大学校の太田文雄(安全保障・危機管理教育センター長)、宮坂直史、牧野耕三の3教授による安全保障講座を開催した。

 今回は安全保障環境の変化、特に国際テロに焦点を当て、一般市民、企業関係者、自衛隊員等、約200名が聴講。

 連合会の目的である「防衛意識の高揚」と「自衛隊に対する支援・協力」の一環で、平成6年から開講、広く国民に認識を深めていただく一助として、その道の権威ある者である防大教授に依頼、今年は13回目。

 講演録は後日連合会から発刊することになっている。

                      
                          安全保障講座を聴講中の参加者

太田 文雄 教授 21世紀の安全保障環境について
講師紹介  
 1970年 防衛大学校卒    
 1996年 在米国武官
 2001年 情報本部長
 2003年 ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院博士号(国際関係論)
 2005年 退官(海将)、防衛大学校安全保障・危機管理教育センター長

講義概要


          -コアリション対非国家主体or「ならず者国家」-

 戦争史から考察すると、封建領主同士や宗教戦争がウエストファリア条約後から19世紀までの近代国家同士の戦争となり、産業革命を経て20世紀の同盟対同盟の戦いとなり、そして情報革命を経て21世紀は、コアリション対非国家主体あるいは「ならず者国家」の戦いが主流となりつつある。

 それに伴って、戦争を決定付けるファクター、戦争目的、兵制等も変化してきた。しかし、我が国周辺には依然として懸念国家が存在し、非国家主体と国家主体がハイブリッド的に懸念材料となっている。

宮坂 直史 助教授 国際テロについて
講師紹介
 1986年 慶應義塾大学法学部政治学科卒業
       日本郵船株式会社勤務等を経て、
 1993年 専修大学法学部助手、選任講師
 1999年 防衛大学校国際関係学科兼総合安全保障研究科助教授

講義概要


        -多元化する脅威にどのように共同対処すべきか-

 まず、テロリズムの現状(イスラム過激派だけでなく、分離主義、右翼・左翼テロ、イスラム教以外の宗教テロ・カルト、単一争点テロなどをふくめる)について、その統計、手法(手製爆薬からNBCRまで)、現代的な特質(脱組織化、国家支援テロの減少、ネットの影響、移民や破綻国家問題との関係)をまとめる。

  次に、テロ対策を未然防止、被害管理を含めて総合的に説明し、国際的にいま何が課題となっているか紹介する。その文脈のなかで、日本のいままでの取り組み(特に、『未然防止の行動計画』の進捗や各種の共同演習など)をレビューする。最後に、テロリズムとテロ対策の将来展望を、国際政治の文脈で、提起する。


牧野 耕三 教授 細菌のバイオサイエンス
講師紹介
 1985年 大阪大学医学博士   
 1985年 大阪大学微生物病研究所助手  
 1994年 同助教授
 2002年 防衛大学校教授 

講義概要


 20
世紀半ば、ワトソンとクリックがDNAの二重ラセン構造を明らかにしたのを契機として、で構成される生物の遺伝子構造や機能についての分子生物学が急速に発展した。

 生物のもつ全遺伝子のセットをゲノムとよぶが、種々の生物でその全ゲノムDNA配列が明らかとなりつつある。我々は、O‐157をはじめとする種々の病原性細菌の全ゲノム配列を明らかにし、病原性遺伝子の役割や機能を明らかにしつつある。 ゲノム配列を基に、バイオテロリズムについても言及したい。

第12回現代の安全保障講座(平成17年12月12日)

 
 全国防衛協会連合会では、防衛大学校教授による「現代の安全保障講座」を平成171212日、グランドヒル市ヶ谷で開催した。

12回目にあたる今回は、冷戦崩壊後、就中テロ以降の国際上社会の状況を踏まえて、イラクに展開したコアリション(有志連合)軍の状況や、国際法よりも国益(世論や国内法)を重視する米国の国防政策と中東・アジア情勢とのかかわり、更にはコンピューターの普及によるユビキタス社会で不可欠なセキュリティ対策等についてであった。

 テーマと講師は、「軍事力の新しい役割」(高橋丈雄教授)、「近年のインターネットセキュリティー」(中村康弘助教授)及び「米国国防政策の変化と中東・アジア情勢」(孫崎都亨教授)で、自分の国は自分で守る意識を反映して、聴講の出席者はメモを取るなど熱心に耳を傾けていた。

1等陸佐 
高橋 丈雄 教授
軍事力の新しい役割
講師紹介
 1979年 防衛大学校卒    
 1984年 防衛大学校研究科卒業
 1990年 大阪大学研修博士(工学)
 2002年 陸自研究本部主任研究開発官
 2004年 防衛大学校教授

講義概要

 冷戦後の軍事力は、正規軍相互の戦争遂行能力よりも、危険な環境でも組織的に活動できる事故簡潔能力を、外交政策や市民生活に直接的に役立つ様々な活動、例えば平和維持活動(PKO)や戦争以外の軍事作戦(MOOTW)、さらには、対テロなどの低烈度紛争(LIC)へとその役割の重心を移してきた。

             そのため、軍隊のドクトリンや組織のあり方も、最新の高価な兵器を次々に更新するという展開よりも、軍隊の柔軟性や機動性、そして効率性を高め、多様な任務に対応できる人材の育成に力を注がなければならない。

中村 康弘 助教授 近年のインターネットセキュリティ 
講師紹介
 1982年 防衛大学校卒    
 1987年 防衛大学校助手
 1994年 同  助教授
 2005年 同 学術情報センター兼務

講義概要


      -ネットワーク技術の動向と最近のセキュリティ問題-

 近年、職場や家庭のパソコンが常時インターネットに接続されるに伴い、コンピュータウィルスや不正アクセスなどの社会に及ぼす影響がますます深刻となってきており、セキュリティ対策の重要性が認識されてきている。

  このようなセキュリティ問題の最近10年間における変遷と技術的背景について、防衛大学校における事例等を交えて紹介し、国際問題としてのインターネットセキュリティについて概観する。


 孫先 亨 教授 米国国防政策の変化と中東・アジア情勢
講師紹介
 1966年 外務省入省
 1975年 ハーバード大学国際問題研究所研究員
 1991年 総合研究開発機構国際交流部長
 1993年 在ウズベキスタン大使
 1997年 外務省国際情報局長
 1999年 在イラン大使
 2002年 防衛大学校教授
 
講義概要


1 冷戦後終了後の米国安全保障戦略の変化:東西関係から南北関係重視。民主化の推進と武力行使の用意

2 9.11米国同時多発テロとブッシュ・ドクトリン成立
     (先制攻撃、軍事力使用、単独行動辞さず、米国の意図、国際協調の上など)

3 イラク戦争は何故混乱したか

4 中東民主化構想とイラン、サウジ

5 米国の対中国戦略の変化

6 北朝鮮核への米国対応

7 日米関係の変容