《概要》
オバマ政権の軍事戦略
QDR(Quadrennial Defense Review:4年毎の国防計画見直し)を中心に

オバマ政権は、本年春あいついで安全保障政策文書を発表した。「国家安全保障政策」、「核態勢見直し」、「ミサイル防衛見直し」、そして「4年毎の国防計画見直し(QDR)」である。中でもQDRは、オバマ政権としてその任期4年間にどのような国防態勢を目指すかという点を明らかにしている。ブッシュ政権が2006年に出したQDRは、「テロとの戦い」とそのための同盟・友好国の協力が強調されていた。これに対して今回のQDRは、世界の各地域をよりきめ細かく見た上で、アメリカの地域戦略を明らかにしている。アジア太平洋地域に関してもそうである。アメリカのアジア戦略が明らかになった今、日本の対応が問われている。今年末の新「防衛大綱」はこの議論を活発化させる好機である。
《レジメ》
1 はじめに
オバマ政権は、本年春あいついで安全保障政策文書を発表した。「4年毎の国防計画見直し(QDR: Quadrennial Defense Review)」、「弾道ミサイル防衛見直し(Ballistic Missile Defense Review)、「核態勢見直し(NPR:
Nuclear Posture Review)」及び「国家安全保障戦略(NSS: National
Security Strategy)」である。中でもQDRは、大統領が就任直後その任期である4年間にどのような国防政策を採用するかという点を明らかにすることから注目される。以下、本年2月に公表されたQDR2010を中心に、オバマ政権の軍事戦略を解説する。
2 アメリカの安全保障・防衛戦略・政策の体系
(1) 国家安全保障戦略の構造
大統領が示す「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」に基づき、国防長官が「国家防衛戦略(National Defense Strategy)」を策定し、これを統合参謀本部議長が「国家軍事戦略(National Military Strategy)」の形に具体化する仕組み。この他必要に応じ、本土安全保障、海洋安全保障、テロ対処等の機能別戦略が策定される。
(2) ボトムアップレビュー(BUR):1993
クリントン政権発足直後、冷戦終焉後の米国防態勢を根本から見直し、2つの大規模地域紛争(2MRC)への対処能力を目標として総兵力220万を140万(欧州10万、アジア太平洋10万)まで削減することを計画。
(3) 4年毎の国防計画見直し(QDR:Quadrennial Defense Review)
○
QDR1997:BURをほぼ踏襲。部外諮問機関である国防委員会(National Defense Panel)は、報告書「国防を変革する(Transforming
Defense)」により変革の必要性を示唆。
○
QDR2001:「不安定の弧(Arc of Instability)」に着目→「世界規模における展開態勢の見直し(Global Posture Review)」
○
QDR2006:「地球規模におけるテロとの戦い(Global War on Terror)」におけるパートナーとの協力を強調、中国の動向を注視。
3 オバマ政権の軍事戦略における重点
QDR2010は、①今日の戦争における勝利、②紛争の防止及び抑止、③多様な事態における侵略撃退能力の準備、④全志願兵による軍の維持を強調。このために以下を重点として戦力のバランス回復(rebalancing)を目指すとしている。
(1)
本土における防衛及び文民当局(civil authority)に対する支援
軍による被害対策(consequence management)支援能力の向上、放射能・核物質の遠隔探知機能の開発促進、即製爆弾(IED)対処能力の向上などを重視
(2)
対反乱作戦、安定化作戦、対テロ作戦における勝利
情報・監視・偵察(ISR)のための有人・無人航空機の増強、特殊作戦部隊、全般目的戦力(general purpose forces)の反乱対処・安定化作戦・テロ対処能力の向上、アフガニスタン及びパキスタンに関する地域専門家の育成などを重視。[注:米国としてテロリストネットワークに対する打撃が奏功しているとの認識。一方、アフガニスタン・パキスタン及びイラクにおいては、掃討・保持・建設(Clear-Hold-Build)方式により、治安回復と社会・経済復興のスパイラル実現を目指し、テロの原因となる貧困、不平等を根絶する根気強い努力が必要]
(3) パートナー国家の安全保障能力構築
(アフガニスタンやイラクなどの)支援対象国家における治安部隊の能力向上、統治機能強化のための教育・訓練などを重視
(4)
接近拒否(anti-access)環境下での抑止及び撃破
○
将来における長距離攻撃能力強化、海面下での優位追求、前方展開基地・部隊の非脆弱化、宇宙に対するアクセスの確保などを重視。
○
国防省報告書「中国の軍事力」は、西太平洋海域において米軍のアクセスが妨害される状況を懸念。QDR2010においては、空軍及び海軍が、統合エアシーバトル構想を深化させていくことで合意した旨記述。

(5) 大量破壊兵器拡散の防止及び対処
(6)
サイバースペースにおける作戦
4 日本の安全保障政策に対するインプリケーション
(1)
脅威認識の変化
脅威の「ハイブリッド化」(QDR2006が指摘した4種類の危険が複合的に顕在化)、また、国際公共域(グローバルコモンズ)における混乱型の危険

(2)
核戦力と拡大抑止(核態勢見直し(NPR)のポイント)
○ 核兵器の拡散と核テロを防止(核テロ=喫緊の課題と認識)
○ 米国の国家安全保障戦略における核兵器の役割を低減
○ 引き下げられた核戦力水準での、戦略的な抑止と安定を維持
○ 地域的な抑止を強化し、同盟国及び友好国を再保証○
※ 同盟国に対する拡大抑止(核の傘)の信頼性に対する疑問を背景として、「友好国・同盟国が独自の核戦力による抑止態勢を求める動機を低減(reduce)」するため、Safe, secure, and effective
nuclear arsenal を維持するとともに、米国及び友好・同盟国の通常戦力を強化するとの方向を明示
※ 核実験を行わずCTBTの批准を目指す、新型核弾頭を開発せず、過去にテスト済みのデザインに基づく部品で延命、既存弾頭の改修や他弾頭からの部品の再利用・部品交換を行う。[注:“There is absolutely no way we can maintain a credible deterrent and
reduce the number of weapons in our stockpile without either resorting to
testing our stockpile or pursuing a modernization program. “(2009年末ゲイツ国防長官)]
(3)
北東アジアに対するコミットメント
○ 北東アジアにおいて、日本及び韓国と緊密な協力の下、米軍の展開態勢を再編するとともに、日米・米韓同盟の役割と能力を再構築して、集団的な抑止力と防衛力を強化。
○
日本・韓国に対する拡大抑止の提供を含め、地域の安定に必要な米軍のプレゼンスを適応。
○
在日米軍の長期的なプレゼンスを保証するとともに、グアムを地域的なハブにする「再編ロードマップ」合意の実現に向けて努力。
○
弾道ミサイル防衛見直し(BMDR)においては、日米BMD共同開発に関し、米国が目指すべき国際協力の顕著な(outstanding)例であると評価。
○
尖閣諸島に関する米政府高官発言(9月):「日米安保条約5条の適用範囲—日本の施政下にある領域における武力攻撃に対する共同対処」
(4)
日本の選択
○ 「日米同盟の基本」への回帰(NBR報告「Managing Unmet Expectations」)
○
安保防衛問題懇談会報告における「平和創造」と「動的抑止」

|